LUPE FIASCO(2)
ダークでメランコリーな新作
『Food & Liquor』に収録されていた同名曲から着想を得たという『The Cool』は、マイケル・ヤング・ヒストリー(映画「スカーフェイス」に憧れるドラッグ・ディーラー)、クール(ゾンビと化したヒストリー)、ゲーム(ヒストリーが師と仰ぐハスラー)、ストリーツ(ゲームの妻であり、ヒストリーの不倫相手)の4名が織り成す物語を軸に進行されるコンセプチュアルな内容で、ルーペ自身はアルバムの基調を「前回よりもダークでメランコリーな感じ」と説明している。実際、ここには『Food & Liquor』における“I Gotcha”のようなストレートなクラブ・トラックは見当たらないが、かと言って敷居の高い小難しい作品かというと、そういうわけでもない。端的に言うならば、“Just Might Be OK”や“The Instrumental”“The Emperor's Soundtrack”の路線を押し進めたメロディアスでプログレッシヴなヒップホップ・アルバム。全体的にギターとストリングスが強調されているせいだろうか、前作と比べてグッと叙情性を増した印象だ。
アルバムのプロダクションは、全体の約半数となる9曲を相棒のサウンドトラックが担当。残りはエイメリーの“That's What UR”を手掛けていたクリス&ドロップをはじめ、クリス・ゴス、アンクル、パトリック・スタンプ(フォール・アウト・ボーイ)といった興味深いラインナップ。ゲスト・アーティストにしても1st&15th勢が中心で、実に5曲でマイクを握る先述のジェムストーンズ以下、前作から引き続いてのマシュー・サントスとサラ・グリーン、新顔のビショップ・G、プー・ベアらが名を連ねる。他にはクリス・ゴスのコネクションと思われるジョシュ・オム(クイーン・オブ・ザ・ストーン・エイジ)、ルーペと共にDJ Deckstreamの作品で客演していたニッキー・ジーンもいるが、やはり最注目となるのはスヌープ・ドッグとのコラボレーション。この共演を意外に思う向きもあるかもしれないが、アイス・キューブやスパイス1など、ウェストコーストのギャングスタ・ラップを通じてヒップホップと出会ったルーペのバックグラウンドを考えれば特に不思議なことではないだろう。そういえば、彼は前作の“Hurt Me Soul”で「ヒップホップは女性を蔑むところがあるから嫌いだったけど、トゥー・ショートにはマジで笑わせてもらった」と過去を振り返っていた。
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