HIDDEN TREASURES OF SOUL
ジル・スコットの新作でふたたび勢いを増すヒドゥン・ビーチの歩み
ヒドゥン・ビーチというレーベルの名を聞いてまず思い浮かべるのは、やはりジル・スコットだろう。彼女が今回発表したニュー・アルバム『The Real Thing : Words & Sounds Vol. 3』はスタジオ録音の3作目(通算5作目)で、レーベルでは最多のリリース数。ヒドゥン・ビーチの契約第1号アクトでもあるジルは、レーベルの始動以来、同社の看板であり続けている。
そんなヒドゥン・ビーチが誕生したのは98年。シカゴ出身のスティーヴ・マッキーヴァーによって、カリフォルニア州サンタモニカを拠点に立ち上げられた。マッキーヴァーは90年代前半にモータウンを仕切っていた人物で、ジャネイなどのR&B作品に関わりながら傘下にモー・ジャズというレーベルを作り、ノーマン・ブラウンらを輩出。ソウルとジャズを基盤にヒップホップとも親和を図るという彼の企みはそのままヒドゥン・ビーチに持ち込まれていくのだが、レーベルに籍を置くマイク・フィリップスやジェフ・ブラッドショウらも参加したジャズ解釈によるヒップホップ名曲のカヴァー集〈Unwrapped〉(現在第4集まで登場)などにも、そうした理念はあきらかだろう。もちろんジルをはじめ、ブレンダ・ラッセル、キンドレッド・ザ・ファミリー・ソウル、ダリアス・ラッカー、リナといったR&Bアクトの作品にもそうしたカラーは見て取れる。さらにヒドゥン・ビーチは配給という形でゴスペル部門のスティル・ウォーターズからビービー・ワイナンズ、インターナショナル部門からはベント・ファブリックのアルバムもリリースしている。リリース数は決して多くないが、アーティストの意志を尊重した運営をモットーとし、隠れた才能や新人の発掘にも力を注いできた。
そして2006年には配給先を切り替え、トライバル・ジャズの作品を皮切りに再スタート。今年に入ってからはスティル・ウォーターズからのサニー・ホーキンズやオニーチャ、それにキート・ヤングといった新鋭のアルバムをリリースし、この後にはレイ・ジョーンズやピーター・ブラックといったアクトも控えている。豪華なゲストとコラボしたコーネル・ウェスト教授のスポークン・ワーズ作品『Never Forget : A Journey Of Revelations』の発表も、黒人コミュニティーに目を向けるレーベルらしい試みと言えようか。黒人音楽の核(ソウル)を見失うことなく、自由かつ大胆な発想から心地良い音楽を届けてくれるヒドゥン・ビーチは、いまやR&BがR&Bらしくあり続けることのできる数少ないレーベルのひとつである。
ヒップホップ曲のジャズ・カヴァー企画盤『Hidden Beach Recordings Presents Unwrapped Vol. 4』(Hidden Beach/Epic)
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