LOVER'S HOLIDAY
J・ホリデイの艶やかな“Bed”マナー
シングル“Bed”がビルボード誌のR&B/ヒップホップ・シングル・チャートで5週連続1位(10月13日現在)を記録するなど、今年の男性R&Bの豊作ぶりを象徴するかのような活躍を繰り広げているワシントンDC出身の新人シンガー、J・ホリデイ。本名を〈Nahum Grymes〉という彼は、母親が牧師兼ゴスペル・シンガー、叔母がクリスタル・ウォーターズの元バック・コーラスという音楽一家に生まれ育ったそうで、当然のように幼い頃から音楽に慣れ親しんできたそうだ。
「ジョデシィはしょっちゅう聴いてたね。2パック、ディアンジェロ、フージーズも大好きだよ。そのうちマーヴィン・ゲイやダニー・ハサウェイといったオールド・ソウルを聴くようになったんだ。小さい頃は、俺がゴスペル以外の音楽を聴いていないか母親がチェックしていたけど、大きくなるにつれて俺から気になる音楽を取り上げるのは無理だって気付いたみたい(笑)。だから、R&Bやソウルを中心にいろんな音楽を聴いてきたんだ。それらすべてのアーティストから少しずつ影響を受けてると思うよ」。
高校卒業後、大学進学が決まっていたものの、プロのシンガーを目指して進学を断念。295なる男性3人組ヴォーカル・グループ(本人いわく「ボーイズIIメンとジョデシィを融合したようなグループ」とのこと)を組んで活動するも、デビューの切符を手に入れることなくグループは解散してしまう。ソロ・シンガーとして歩みはじめたホリデイはある時、4曲入りデモテープを持ってキャピトル・レコーズを訪問。その場で契約を手に入れたそうだ。
「その時に持っていった4曲はすべて今回のアルバムに収録されてるんだよ。それって俺を単にアーティストとして気に入ったってだけじゃなくて、ちゃんと俺の作品も信じてくれたってことだよね。凄く光栄に思ってるよ」。
そして2006年にロドニー・ジャーキンスがプロデュースしたシングル“Be With Me”でデビューするもヒットには至らず。しかしミムズの“Girlfriend Fav MC”(アルバム『Music Is My Savior』収録)にフィーチャーされたことで一躍注目を集め、先述した“Bed”の大ヒットへと至ったわけだ。そうして、すべてのお膳立てが整ったところで、いよいよファースト・アルバム『Back Of My Lac'』の登場となったのである。
「一つ一つの曲にメッセージのあるアルバムにしたかった。俺がきちんと思いを込めて丁寧に作ったんだって感じてもらえるような一枚にしたかったんだよ」という本作。“Bed”を筆頭にメロウなラヴソングが多く収録されているが、一方でウイリアム・デヴォーン“Be Thankful For What You Got”のフレーズも飛び出す“Back Of My Lac'”や、自身が経験した日常をリアルに綴った“Ghetto”“Thug Commandment”といった楽曲も収録。これらブルージーなナンバーにこそホリデイのシンガーとしての資質の高さが表れているように思うのだが、どうだろう。
「俺のなかにあるのはラヴソングばかりじゃないからね。それに音楽を通して人はいろんなことを表現できるだろ? 俺が伝えなくてはいけないこともあるんだ。だから“Ghetto”や“Thug Commandment”のような曲を作ったんだよ。自分自身もこの2曲には共感できるし、俺みたいな環境で育った人にはもちろん理解してもらえると思う。自分が感じていることや問題だと思うことを正直に伝えてるんだ」。
また、「みんなそろそろちゃんと内容のある音楽を聴きたがってると思う。アーティストが独りよがりで作った曲じゃなくて、リスナーが聴いて共感できたり気分が良くなれるような曲をね。このアルバムにはまさにそんな曲ばかりが収録されてるんだよ」と語るホリデイ。それがただのビッグマウスに終わっていないということは、今回の『Back Of My Lac'』を聴けばわかることだ。またひとり、シーンを騒がせる男の登場である。
▼関連盤を紹介。
- 前の記事: またも充実作を届けてくれたラサーン・パターソン
- 次の記事: HIDDEN TREASURES OF SOUL