RETURN OF THE REAL?
多様化を極めていくR&Bの真髄はどこにある?
R&Bとは何だろうか? というか、何をもってR&Bと呼ぶのだろう? いまやそれは当然ながら演じ手の人種を問うものではないし、いくらでも幅広い解釈ができる音楽の1カテゴリーとなっているのは確かだ。ビートがどんなプログレッシヴな発展を遂げようと、それらがすべてR&Bの範疇内で受容されている現状を思うと、相当懐の深い音楽ではありますわな。しかしながら、仮にヒップホップ・ビートがあったとして、そこにラップが乗ったものをヒップホップと呼び、ある種の歌が乗ったものをR&Bと呼ぶのであれば、少なくともR&Bを規定するものは〈歌〉だということになる。あたりまえだけど、インストゥルメンタル・ヒップホップはあっても、インストのR&Bというものにはあんまりお目にかかったことがないしね。
ただ、あえて狭量なことを言うと、中身のヴァラエティーや新奇なアイデア、さらには幅広いリスナーにリーチするためのアピール要素を尊ぶあまりに、どうも薄口の味付けをした作品が増えすぎているんじゃないの?というのが、R&Bファンの偽らざる心境なんじゃないか……とも思うわけだ。どんなカテゴリーにも広く聴かれるようなものとコアなものが存在すると思うんだけど、そこで本質が薄まっていくようなら、非常につまらないと思う。で、R&Bの本質をさっき仮定した〈歌〉そのものだと考えるのなら、やはりいまのメインストリーム作品は歌そのものが薄口なモノを崇めていると思わざるを得ないし、インディー・シーンに関しても(特に日本で紹介されるようなものは)オシャレで胃もたれしないようなカフェ系ネオ・ソウル(悪い意味ではありません)が礼賛されすぎてる気がしなくもない。
まあ、内容の善し悪しとか音楽そのもののクォリティーとはまったく関係のない話なんだけど、本質を切り捨てたR&Bは、少なくとも一定の濃ゆさを求めるR&Bファンには不満足なものになって当然だろう。ことR&Bに関しては90年代モノの遺産を見直す動きが盛んになってきているのも、90年代には確かに存在していた、テクノロジーや流行と対峙しながらも濃厚さを失うつもりのなかったR&B作品を求めるファンが多い証拠なのだと思う。インディーながらクープ・デヴィルやロイ・アンソニーのアルバム(いずれも下のディスクガイドに掲載)が話題になっているのも、そうしたムードとシンクロしているのに違いない。
で、今回の特集ではそのあたりの濃ゆさという視点から現代のR&Bを見つめ直すという意味合いでナヴィゲートしているので、ビートが新しくてビックリ!とか、多彩な内容で幅広いリスナーにオススメ云々といった意味合いでの評価は行っていない。が、そういう観点からこの秋のリリース・ラッシュを眺めてみても、キーシャ・コールやジャギド・エッジといった人たちは90年代ばりの濃密さへと自然にアプローチしているわけだし、ナヨって見られがちなヤング・アーバン系のトレイ・ソングズですらR・ケリーを意識して現代的な濃ゆさを獲得している。アンジー・ストーンやレディシ、ジル・スコットのような筋金入りの存在は言うまでもないだろう。R&Bがポップ・チャートでひと頃ほどの猛威を振るっているわけではない現在だからこそ、このあたりで案外シーンの流れも〈Back To Black〉しそうな気がしている。
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