JUST LIKE QUEEN(3)
最高にソウルフルなアルバム
果たして、アルバムの中身は前作同様に濃厚だ。アンソニー・ハミルトンとデュエットした“Losing You”のようなソウル・チューンと、故郷オークランドの偉人でもあるトゥー・ショートをフィーチャーしたランナーズ制作のドープなクランク“Didn't I Tell You”のようなヒップホップ・トラックを何の違和感もなく一繋がりにして聴かせるヴォーカルの力は前作以上に支配力を強めている。他にもラッパーでは先述した“Let It Go”のリミックスにT.I.とヤング・ドローを迎え、軽快なアップ・ナンバーの“Shoulda Let You Go”に新人のアミーナをフィーチャーしているが、芯の強いエモーショナルな歌声にはいささかの揺るぎもなく、決して楽曲のパーツとして機能することなどありえない。何というか、実にドッシリとしたケツのデカい歌唱を聴かせていて、そんな逞しさがまた楽曲全体を輝かせているのだから……最高である。プロデューサーを前作からガラリと入れ替えているあたりにも潔さを感じるが、ここまで歌自体を前面に出した時点でプロデューサーの新奇さにこだわる必要がなくなった結果とも思える。いずれにせよ、プロダクション主導な昨今のR&B作品のなかにあってひときわ新鮮な『Just Like You』は、迷いなく最高のR&Bアルバムだと断言しておきたい。
ちなみに、オークランド出身のキーシャは81年生まれの26歳。12歳の時にMCハマーとレコーディングを経験して以来、ベイエリアの人気ラッパーであるメッシー・マーヴと共演するなど、実は10年以上も成功を夢見て下積みに奮闘してきたのだ。「ゲットーの女の子たちのロールモデルになりたいと思ってるわ」とも話す彼女は、対象が恋愛であれ人生であれ、真摯に向き合って苦しみを乗り越えることの大切さを強調する。キーシャの歌声が美しくソウルフルに響くのも、彼女自身がそうやってきたからかもしれない。新しいクイーンの名はキーシャ・コールだ。
▼『Just Like You』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
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