Babyface(2)
成功までの足取り
ベイビーフェイスことケネス(ケニー)・エドモンズは、59年4月10日、インディアナ州インディアナポリスに生を受けた。インディアナ州といえばマイケルやジャネットらのジャクソン家の出身地。多くの子供たちがそうであったように、ケネス少年もまたジャクソン5の大ファンだったという。ただ、彼が普通の子供と違ったのは、大胆にも音楽教師になりすまし、〈授業の参考にしたいから〉などともっともらしい口実でまんまとマイケルに会ってしまったことだった。これほど図々しいことをやってのけながらも、基本的にシャイな性格の持ち主である彼は、想いを寄せる女の子に自分の気持ちを伝えることすらままならず、ただただ曲に託していたという。繊細で女心をくすぐる彼のソングライティングの原点はこんなところにもあるのだろう。
現在のベイビーフェイスのイメージからすると意外に思うかもしれないが、彼のプロ・キャリアのスタートはファンク・バンドだった。兄メルヴィンらのアマチュア・バンドに参加し、また自身の主導で結成したターニッシュド・シルヴァーなるグループで活動した後、ケネスは地元のファンク・バンドであるマンチャイルドに加入。同グループは77年と78年にそれぞれアルバムをリリースし、彼はそこでギターとソングライティング、一部の曲ではリード・ヴォーカルまで担当している。この頃のファンク・バンドのスロウには素晴らしいものが少なくないが、ケネスが書くバラードはまさにその好サンプルであった。80年前後のケネスの足取りについては定かではなく、マンチャイルドの後継バンドと見られるレッド・ホットに(少なくともソングライターとして)関わっていたことは確かだが、やはりこの時期に別のファンク・バンド、クラウド・プリーザーズに参加したという情報がある一方で、それはマンチャイルド加入前の話だという説もある。ともあれ、彼は引き続きファンク畑を邁進し、83年にオハイオのファンク・バンドであるディールにギタリスト/キーボーディスト/ソングライターとして迎えられる。そもそもオリジナル・メンバーではなかったこともあるのか、当初のケネスはさほど中心的な役回りは果たしていなかったものの、ドラマーのLA・リードと共にプロデューサーとしてクレジットされた85年の2作目『Material Thangz』からは、“Sweet November”のように彼が単独で書いてみずから歌った曲が登場するなど、中核メンバーとしての色を濃くしていく。グループ史上唯一、ポップ・チャートでTOP10入りした激甘チューン“Two Occasions”を含む3作目『Eyes Of A Stranger』(87年)がリリースされる頃には、ディールはファンクよりもバラードに強いグループとなっていた。
ケネスは『Material Thangz』の後にグループの活動と並行する形でソロ・キャリアを開始していたが、その際にアーティスト名として、偶然同じスタジオにいたブーツィー・コリンズによって命名された〈ベイビーフェイス〉というあだ名を選んだ。その由来は、言うまでもなくケネスの童顔にある。彼の甘いマスクをカラフルな風船で彩ったジャケが印象的(後に別の写真に差し替えられてしまう)なソロ・デビュー・アルバム『Lovers』(86年)は、彼のロマンティックな世界がぎっしり詰め込まれた良作だったにもかかわらず大きなブレイクには繋がらず、むしろそれを追いかけるように登場した先述のディール『Eyes Of A Stranger』のほうがチャートの上位にランクしている。
もっとも、このヒットの差はタイミングによるところが大きい。80年代前半からミッドナイト・スターやウィスパーズといったレーベルメイトを中心に細々と曲を提供してきたケネスだったが、87年になると外部仕事が急増。ソングライトはもちろん、LAと共にプロデュースにも携わったウィスパーズ“Rock Steady”、ペブルス“Girlfriend”、クライマックス“I'd Still Say Yes”などが次々に大きなヒットとなり、ソングライターとして、またサウンド・クリエイターとして、1年間で知名度を飛躍的にアップさせたのだった。さらに翌88年には、700万枚超のセールスを記録するボビー・ブラウンのモンスター・アルバム『Don't Be Cruel』を手掛けたことが決定打となり、テディ・ライリーらと共に新世代のR&Bの作り手としてLA&ベイビーフェイスの名を轟かせることになる。世間の注目を集める中で89年にリリースされた自身のソロ2作目『Tender Lover』は、年を跨がずしてプラチナ・ディスクに輝いた。
▼ベイビーフェイスが在籍したバンドの作品。
マンチャイルドの編集盤『A Golden Classics Edition』(Collectables)
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