こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

特集

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2007年09月27日 11:00

更新: 2007年09月27日 14:25

ソース: 『bounce』 291号(2007/9/25)

文/出嶌 孝次

ヒップホップの救世主はカミリオネアだ!!


  まず、ジャケを見てほしい。ヒップホップには付き物の〈Parental Advisory〉表示が入っていない。かといってもちろんキッズ向けというわけでもない。それどころか、他のヒップホップ作品以上にある意味では過激なサブジェクトを、〈Bitch〉や〈Nigga〉といった単語を用いず、巧みに表現しているのだ。その担い手こそ、ヒューストンを拠点とするカミリオネアだ。彼自身がノビノビと歌うフックのキャッチーさもあって全米チャートを制し、昨年を代表するキラー・チューンとなった“Ridin'”からおよそ2年、このたび登場したセカンド・アルバム『Ultimate Victory』は、ミックステープ・メサイアやキング・クッパ(某TVゲームから取った名前!)の異名を取るクレヴァーな奇才が、また次のレヴェルへと到達したことを示す大傑作なのである。

 90年代末からポール・ウォールとコンビを組み、いまを時めくスウィシャ・ハウスに属して伝説的なコンピ『The Day Hell Broke Loose』(99年)にも参加していたカミリオネアだが、紆余曲折の末にコンビを解消し、自主レーベルのカミリタリーを立ち上げるとミックステープを量産しはじめ、盟友とも言えるリル・フリップらの作品に客演しながら徐々に名を売っていく。そして、2004年に発表したミックステープ『The Mixtape Messiah』の話題からメジャー契約を掴んだ彼が、満を持してリリースしたオリジナル・ソロ・アルバムこそ、先述の“Ridin'”を収めた『The Sound Of Revenge』だったというわけだ。

 さて、シアラ“Get Up”やR・ケリー“Get Dirty”、スリー6マフィア“Doe Boy Fresh”などの印象的な客演を経て登場した今回の『Ultimate Victory』からは、スリック・リックをフィーチャーした先行シングル“Hip Hop Police”がすでに話題となっている。絶好調のJR・ロッテムが用意した性急なトラックに乗せて昔のスヌープのようなフックをカミリオネア自身が歌った同曲は、ラッパーと犯罪と警察の関係をモチーフにしたシニカルな仕上がりで、安易にイメージされがちなサグい楽曲とは一線を画すものだ。同じくJRがヨーロッパのメタル・アンセム“The Final Countdown”を引用したチープなトラックに興奮必至の“Industry Groupie”は、他のラッパーの名前や曲名を巧みに引用してグルーピーを茶化しながら、業界に巣喰う〈ビッチ〉をも狙い撃ったような出来で、これまた興味深い。他にも地元の英雄であるUGKの2人とバラバラに共演していたり、リル・ウェインと組んで不穏なロック風味を轟かせたり、それぞれに個性的なトラックが並んでいる。ほぼ無名のケイン・ビーツにプロデュースの大部分を委ねて、地域性の薄いトラックを並べているのもカミリオネアらしいところかもしれない。

 このように全力で推薦しまくっておきたい『Ultimate Victory』は、ラッパーとしての創造性をアイデア豊かに追求し続けるユニークな才人の、新たなるチャレンジの成果である。どっちにしろ、こういう才能が生まれてくる限り、誰もヒップホップを殺すことなどできないだろう。

▼『Ultimate Victory』に参加したアーティストの作品を一部紹介。


スリック・リックの99年作『The Art Of Storytelling』(Def Jam)

インタビュー