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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2007年09月06日 11:00

更新: 2007年09月06日 17:12

ソース: 『bounce』 290号(2007/8/25)

文/土田 真弓

〈突然変異型〉を象徴する注目バンドが、日本語ロック・シーンの新たな突破口を切り拓く新作を放つ!!


  そのカテゴライズ不能な音楽性ゆえ、〈突然変異型〉と呼ばれる新世代のロック・バンドがここ数年の間で続々と頭角を現してきている。多様な音楽的成分を配合し、破壊的威力に満ちたサウンドへと変換する――。埼玉で結成された凛として時雨も、そんな特徴を持ったバンドのうちのひとつだ。鋭利に鼓膜を貫く男女ツイン・ヴォーカル、目まぐるしく転調するリズム、轟音渦巻くフィードバック・ギター。彼らが掻き鳴らす音世界のなかでは、パンク、メタル、エモ、プログレ、ハードコアなどが激しくぶつかり合い、死闘を演じている。そこで気になるのは、彼らの音楽遍歴だ。 

「いわゆるプログレッシヴ・ヘヴィーメタルみたいな、わかりやすくてカッコイイものが好きです」(ピエール中野〈Masatoshi Nakano〉、ドラムス)。 

納得!……したのも束の間、一方でソングライターのTK(Toru Kitajima、ヴォーカル/ギター)はこう語る。

「プログレやヘヴィーメタルは、どっちかというと嫌い(笑)。でも、それでちょうどいいのかな、って。中野くんに〈こういうのやってみてよ〉って曲を放り投げると、うまく時雨に馴染むような具合で返ってくる。これで僕や345(Miyoko Nakamura、ヴォーカル/ベース)もメタラーだったら、すごいことになります(笑)」。

  いや、別の意味ですごいことになっている彼らのニュー・アルバム『Inspiration is DEAD』は、「再生された瞬間から攻めたい」(TK)と意図して冒頭にセットされた高速メタル・ナンバー“nakano kill you”や、アッパーなリズムとギターの低温アルペジオが拮抗するダンス・エモ・チューン“DISCO FLIGHT”をはじめ、自己主張の強い楽曲がズラリ。さらに全編を覆う冷めた視線と灼熱の音塊との温度差は、彼らのサウンドが孕む〈得体の知れなさ〉をより増幅する役目を果たしている。

「初期衝動をパッケージした1枚目のアルバムと、2枚目、3枚目とを比べると、アンバランスでザラついた要素がどんどん増えてきてますね。温度のないものを表現するのが好きなんですよ。楽器の音も声も冷たくて一見無表情なんだけど、よく見るとちゃんと表情がある感じというか。歌詞もフィルターをかけたり、逆にフィルターを突然外して、一瞬だけ視界が開けるようにしたりして、イメージを限定しないように作ってます。だから、聴いてる人にはこっちが何考えてるのかわかんないように見えてるんじゃないかな。多少の自覚はありますね(笑)」(TK)。

アグレッシヴなライヴ・パフォーマンスにおいても定評のある彼ら。345いわく、「良いライヴの時は頭のなかが真っ白になる」そうだが、本作には、それと同種のカタルシスが高濃度で凝縮されている。現実とも妄想ともつかない、殺伐としたイメージがフラッシュバックする音像。顔色ひとつ変えず、聴き手にとどめを突き刺す歌。その凶暴なセンチメンタリズムが導く先で、いったいあなたは何を見るのだろう?
▼凛として時雨の作品を紹介

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