Joni Mitchell
〈ブルー、歌は刺青に似ている〉という鮮烈なフレーズで始まる“Blue”。同曲や“A Case Of You”を含むアルバム『Blue』(71年)は、ジョニ・ミッチェルがみずからの心象風景を繊細なタッチで描き上げた一枚である。この自己告白的な作品は、〈心に傷を負った女性が擦り切れるまで聴くレコード〉と評され、世界中の女性たちから共感を呼んだ。そんな『Blue』は、〈シンガー・ソングライター〉のイメージを決定づけたアルバムでもある。もしジョニが『Blue』のみを残して音楽シーンから消えてしまったとしても、彼女の名は今日まで語り継がれていたに違いない。それほど『Blue』はいまなお輝きを放っている永遠の名盤だ。しかし、『Blue』は初期の代表作ではあるものの、これさえ聴けばジョニの全貌を把握できるといった類のアルバムではない。
『Hejira』(76年)には、“Amelia”という曲が収められている。32年に女性初の大西洋単独横断飛行を成功させたアメリア・イアハートのことを歌ったものだ。この女性飛行士と同じように、ジョニは勇敢な冒険家であり、なおかつ孤立や孤独を畏れない芸術家である。現に彼女はひとつの地点に立ち止まることなく、果敢なチャレンジを繰り返し、新境地を切り拓いてきた。その結果、彼女は男性優位社会であるロック界において〈男性と肩を並べた最初の女性〉(リンダ・ロンシュタットの発言)と評されているし、その影響力の大きさはとてもこのスペースでは語り尽くせない。ジョニの起伏に富んだ軌跡――それそのものが、ひとつの作品である。そういった意味では、彼女はビートルズやマイルス・デイヴィスやカエターノ・ヴェローゾなどと並べて語られるべき存在だ。そんなジョニの息子や娘、あるいは歳が離れていて、なおかつ肌の色が異なる弟や妹が、このたび登場したトリビュート・アルバム『A Tribute To Joni Mitchell』に参加しているプリンスやカサンドラ・ウィルソン、ビョークといったアーティストである。
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