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特集

COSMIC SOUL FROM INNER SPACE

 宇宙的な広がりを感じさせる奥行きのある空間がうっとりと横たわり、そこにはソウルフルで心地良いヴァイブが濃密に立ち込めている……とか書くと非常にありきたりで陳腐ではあるが、本当にそうとしか形容できない音楽もあるのよ。かつてはデトロイトの専売特許的な側面もあったスペイシーでコズミックな〈ソウル・ミュージック〉が、世界中のさまざまな方面に拡がり、いまや豊穣なフィールドを構成するようになっているのだ。こうした空間構築術の開祖のひとりが、デトロイト・テクノ~ハウスにも通じる音色と音質とタイム感で緻密なヒップホップ・ビートを組み上げていた才人、ジェイ・ディー=J・ディラであることは言うまでもない。残念ながら彼は昨年星になってしまったが、そのアンプ・フィドラーやアイロ、ドゥウェレ、BR・ガンナ、ランドルフ、そしてワジードといった大粒の惑星たちは現在もデトロイトの宇宙地図をアップデイトし続けている真っ最中だ。そして、LA~サンフランシスコに目を向ければ、カルロス・ニーニョやサー・ラーのようなフィクサーたちが目映いばかりの才気で宇宙を照らし出しているし、デトロイトとは縁の深いオランダのアムステルダムにもそうしたサウンドをサポートする動きがある。ヨーロッパでも日本でも、同じ銀河に星座を描くアーティストたちの数はどんどん増えてきた。ただ、何か一定のカテゴライズやジャンル設定がなされているわけではないので、それぞれの面々は散らばって見えるかもしれない。ここではそうした輝きのひとつひとつを同じ銀河に呼び集めてみよう。ガイドに沿って宇宙を探求していけば、きっと素晴らしい音楽に出会えるであろうことは保証します。

VARIOUS ARTISTS
『Carlos Nino Presents The Sound Of L.A.』
 Really Happening(2006)
US西海岸スピリチュアル派の首領、カルロス・ニーニョが編んだコンピ。ニーニョ自身のアモンコンタクトをはじめ、サー・ラーやジョージア・アン・マルドロウ、ノーバディ、マッドリブといった面々が新しいソウルとビートの可能性をさまざまな形で提案してくれる。

VARIOUS ARTISTS
『Basement Soul : Sound From The Floor』
 Unique Uncut(2007)
アンプ・フィドラーやDJスピナに連なるような、黒スオーヴァーな顔ぶれを集めたコンピ。キッド・サブライムやジャネイロ・ジャレルといったヒップホップ勢に、注目のコズミック・ジャズマン=マックス・コールなど次代の才能が珠玉を持ち寄ったUK産らしい逸品だ。

J. ISAAC
『Welcome To The Planet』
 306(2006)
同郷デトロイトのスラム・ヴィレッジとの絡みで知られる自作自演派シンガーのファースト・アルバム。〈ドゥウェレ2世〉との呼び声そのままの持ち味ながら、この人はヴァイブよりもメロディーを重視した作風で爽やかに歌い込んでくる。アン・ネスビーやBR・ガンナも参加!

VARIOUS ARTISTS
『Beat Dimensions Vol. 1』
 Rush Hour(2007)
世界中のグッド・ヴァイブなブレイクビーツをカテゴリーやネーム・ヴァリュー不問で集めた好企画盤。モーガン・スペイセックやアードヴァークなど名のある人はわずかだが、SUPER SMOKY SOULやビッグ・ペイバックに続く連中がこのなかにいるはず!?

TA'RAACH & THE LOVELUTION
『The Fevers』
 Sound In Color(2006)
インナーゾーン・オーケストラやデトロイト・エクスペリメント、ダブリー、ドゥウェレらと絡み、デトロイトのコズミック・サイドを長らく磨き上げてきたMC兼プロデューサー、ラックス改めタラーチの、本名義による初作。レイドバックしたトーンとソウルフルなマナーが貫かれ、柔らかな昂揚感で作品全体がゆっくりと満たされていくようなトータルの聴き心地がメチャクチャ素晴らしい。ビッグ・トーンやアンプ・フィドラーら選り抜かれたゲスト陣も、作品に程良い彩色を施している。とにかくスモーキーで奥行きのあるビート・スペースを体感してほしい。大袈裟じゃなく、ある側面ではJ・ディラに追いついているかも!?

THE BIG PAYBACK
『The Big Payback』
 CIRCULATIONS(2007)
米アラバマ住まいの鍵盤奏者であるバイロンと、フランス人ビートメイカーのオンラーによるコンビ。スペースはスペースでも〈MySpace〉で出会ったユニットが、一度も会わないままファイルのやりとりだけで完成させたファースト・アルバム……という現代的(?)なウリもあるが、それ以上にグルーヴィーでスペイシーな出音の素晴らしさに耳を貸すべきだろう。いかにも〈サー・ラー以降〉を思わせる黒いフューチャリスティック・ビートが惜しげもなく放出されると、本当に宇宙にさらわれそうになるよ!

PIRAHNAHEAD
『Solid: (A Moment) In The Mind Of Pirahnahead』
 Mahogani (2006)
最近だと沖野修也“IF IT IS LOVE”のサウンド・プロデュースも手掛けたムーディーマンの秘蔵っ子で、この初作はハウス寄りというよりもファンキーなヴァイブがたまたまフロアで機能した感じだ。漆黒の宇宙絵図をいとも簡単に描き出すような鍵盤捌きが美しすぎる。濃密!

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2007年06月07日 11:00

更新: 2007年06月07日 17:24

ソース: 『bounce』 287号(2007/5/25)

文/出嶌 孝次

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