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Bjork

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2007年05月24日 11:00

更新: 2007年05月24日 17:47

ソース: 『bounce』 286号(2007/4/25)

文/岡村 詩野


これまでに多くのビョークのインタヴュー記事を読んできたが、インタヴュアーの質問がいかなるものであっても最終的な回答がこれほど変わらない人も珍しい。相手がどんなことを質問してきてもまったく動じないし、〈自分の伝えたいことはあらかじめ決まっている〉とでも言うように常に泰然としている。もちろん話すたびに思惑がブレることなんて逆にあってはおかしいのだが、話の流れでつい本音が出てしまったというようなヒューマンな雰囲気を、彼女の記事の中から感じたことは実はほとんどない。そのくらい作品に対するビョークの世界観は、一度作り上げられたら最後、そう簡単には崩れないということなのだろうと思う。

 そんなビョークがNYでレコーディングしたニュー・アルバム『Volta』に、ティンバランド、コノノNo.1、ブライアン・チッペンデイル(ライトニング・ボルト)らに混ざって、アントニー(アントニー&ザ・ジョンソンズ)が参加していることを最初に知った時、彼女の中で何かが変わりつつあることをふと感じたものだった。前作『Medulla』(2004年)は、わすかの楽器(そのうちの一部を担当していたのが、アントニーとも交流のある若き現代音楽家のニコ・ムーリーであることは重要な事実)を除いてほとんどが肉声で構成されたアルバムだったが、あの作品を出すことによってビョークは自分のコアなアイデンティティーである〈歌い手〉としての出発点に立ち返ろうとしたのかもしれない。『Homogenic』(97年)や『Vespertine』(2001年)あたりをピークに、彼女は個性的なトラックメイカーにある種丸投げするかのように、自身は素材に徹していたところがあったが、『Volta』にはティンバランドが手掛けた挑発的なチューンが強いインパクトを放つ一方で、彼女以上にクセのあるシンガーのアントニーと2曲もデュエットしている。ロバート・ワイアットやマイク・パットン、日本のDOKAKAらが参加していた肉声アルバム『Medulla』を別にすれば、彼女が他のシンガーと自分の作品で対等に共演するなどこれまでは考えられないことだった。そういった意味で、新作の最大のトピックであり、今後のビョークを占ううえで重要なポイントは、ティンバランドの参加以上にアントニーとのデュエットにあると個人的には思っている。

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