Soul Revisited
ソウルはいつ、どこから帰ってきた?
アンソニー・ハミルトンがソー・ソー・デフから再出発を図った2003年あたりからだろうか、ここ数年、〈R&B〉というよりも〈ソウル〉と呼びたくなるようなR&Bが増えてきたという実感がある。簡単に言えば、〈歌モノ〉がより〈歌モノ〉っぽくなっているのだ。そもそもR&Bの本質は歌なのでそう言うのもおかしいのだが、ビート・コンシャスなR&Bが放たれ続ける一方で、逆に歌そのものを前面に押し出したシンプルで素朴な曲が強いインパクトを放つという〈揺り戻し〉的な現象が、ブームとは違った次元でジワジワと起こっている。R&Bはその本質である歌(声)にふたたび目覚め、ソウルを取り戻しつつあるようだ。
ソウル・ミュージックの復権。とは言っても、単純に過去のソウル遺産をコピーしただけの形骸化したものではなく、それは背景にヒップホップがある歌い手や作り手が新しい感性で放つソウルのこと。ここ20年ぐらいの間、ブラック・ミュージックの伝統である革新性やソウル感を受け継いできたのは圧倒的にヒップホップだったわけだが、そのヒップホップに追随するかたちで生まれたR&Bが今度はヒップホップをとおしてソウルを再発見し、その根源的な部分を露わにしはじめている。例えばノーティ・バイ・ネイチャーのケイジーの援護を受けて登場したジャヒームが、ヒップホップ的な目線でソウルを見つめ、黒人ゲットーの日常を語り続けているように。そして後続のアーバン・ミスティックやライフ・ジェニングスも2パックやビギーへの愛を語りながらサム・クックなどに傾倒し、呆れるほどソウルフルに振る舞っている。女性ならリーラ・ジェイムズなども似たタイプだろう。
そうしたシンガーたちが普通に出てくるようになったのは、やはりかつてのニュー・クラシック・ソウルに端を発するオーガニック・ソウル~ネオ・ソウルのブームもあるだろう。まず、そこに分類されたようなアーティストたちが、ヒップホップをベースとしながら70年代ソウル的な躍動感を取り戻し、ソウル復権の土壌を整えた。そうした流れで例えばジョン・レジェンドのようなシンガー・ソングライターが注目を浴び、R&Bにおけるメロディーの重要性を再認識させてくれたわけだが、そのジョンをバックアップしたのがカニエ・ウェストやウィル・アイ・アムのように〈ソウル・オタク〉なヒップホップ畑のクリエイターだったことも大きい。そんな彼らが自分たちの時代のソウル・ミュージックを創ろうと試み、結果それをヒットに導いたことで、レトロなソウル(・シンガー)を新たな感性で育てていくことのメリットに音楽業界が気付きはじめたようにも思う。ガヴァナーがT.I.のグランド・ハッスルにフックアップされたことなどはその好例だろう。今回メイシー・グレイが旧知のウィル・アイ・アムのレーベルに迎え入れられたのもそれに近い。
ともあれ、こうした諸現象がシンクロして現在の〈揺り戻し〉的な動きがシーンに根付いてきたのは確かで、ティーナ・マリーやチャーリー・ウィルソンといったヴェテランがトレードマークとなるスタイルを保持しながらいまのシーンに違和感なく溶け込んでいるあたりも〈揺り戻し〉を裏付けるものだろう。また、ソロ作をリリースしたK-Ci、ブライアン・マックナイトあたりの中堅がソウル・シンガーとして心地良いポジションを獲得できているあたりもそんな風潮ゆえではないか。それだけにジェラルド・レヴァートの死は惜しまれるが、今後はミュージック・ソウルチャイルドや、女性ならシリーナ・ジョンソンあたりが彼を追う存在になると期待したい。
黒人クリエイターによる新奇なサウンドが必ずしもR&Bとしての最先端だとは言えなくなったいま、本当のブラックネスは、よりシンプルにソウルの核を探っていくシンガーたちの、虚飾のない歌にあるのかもしれない。
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