KLAXONS(2)
〈ニュー・レイヴ〉、誕生!
そういったUK音楽事情から還元される予測。それは、まさに昨年半ばから勃発している〈ニュー・レイヴ〉、つまり〈フロアで人々を踊らせるロック・サウンド〉の流行が、10年後、20年後にリスペクトすべきムーヴメントとして語られているであろうということだ。ライヴ会場があたかもレイヴのように揺れる客層で溢れかえっているこのシーンには、なにしろクラクソンズがいる。彼らは自分たちをブームの軸に置くのではなく、むしろ自分たちがいる場所で何が起こっているかをちゃんと外側からの目線で冷静に把握。しかもムーヴメントが決して音楽性のみのものだとは考えていない。正しい。だって〈ニュー・レイヴ〉と呼ばれる音の共通項は、〈踊れること〉ぐらいなのだから。もっとも、そういった言葉の下に音楽ファンの新陳代謝が起こり、リスナーの価値観が刺激され、そして新しい何かが始まっていくこと――ムーヴメントというものの役割と意義を、この3人組は理解している。この肝の据わりっぷり、覚悟の決め方が本当に頼もしい。
ちなみに、今回インタヴューに応じてくれたジェイミー・レイノルズ(ベースを担当しているデカイ人)こそ、〈ニュー・レイヴ〉の名付け親だ。しかし、そこにはこんな想いが。
「陶酔感の強い音楽だからこそ持ち得る興奮を、そういうものがなくなってしまった音楽シーンにふたたび付け加えたいという願望を言い表す、まあ、ジョークだったんだ。で、いまではこの言葉は、みんなが自分の人生の一部になるべきだと考えるような……なんというか、若者たちのマイナーなカルトみたいになったね。でも、これ(=ニュー・レイヴ)以前にも、どういうジャンルであれ、生まれては消えていくものではあったけれど」。
自分たちを過剰に肯定するのではなく、〈消えていく〉ことまで視野に入れているあたりが末恐ろしい。そしてそれこそが彼らの覚悟だ。
80年代末から90年代初頭にかけてUKで起こったレイヴ・カルチャーでは、あらゆる意味で音楽が商業化された時代だったからこそ、そこに呑み込まれることなく自分たちでオーガナイズするというDIY精神が重要な要素となっていた。学校の体育館や倉庫でイヴェントを開き、携帯メールで友達が友達を呼んで人々が集結というクラクソンズのスタイルも、それに近い。
「どちらかというと、学生が自宅で開くパーティーよりも、イヴェントの数時間前に詳細が告知されるようなハプニング的なアイデアにインスパイアされたね」。
もっともジェイミーは、オリジナルのレイヴと比較されることについてはこう話す。
「むしろ僕としては、バディ・ホリーが若者たちを、彼らの親たちには理解できなかったであろう“Rave On”(という曲)で鼓舞した時代の感覚に近いと思ってるんだよ」。
バディ・ホリーのこの曲のモチーフは〈愛〉。一人にならず、孤独を感じないようにレイヴ・オン……。ジェイミーはさらにデビュー・アルバム『Myths Of The Near Future』について「すべての曲が、まだ始まっていない〈愛〉という感覚を持ってるね」、続けて「ポップ・ミュージックをとおして、考え得るリアリティーというものから脱出したい」と話す。このアルバムがどうして身体は自然に揺れてしまうのに、同時に泣き笑いしたくなるほどのメロウさとダークさを宿しているかが、おのずと見えてくるよう。
「僕らはこう考えたいんだ――つまり音楽とは、〈時にはとてつもない悲壮感をも伴った強い陶酔感を生み出すものだ〉ってね」。
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