J-HIP HOP
〈地殻変動前夜〉を思わせる活況ぶり
2006年も、東京や名古屋がタマ数で日本語ラップ界を引っ張る状況は変わらず。そうしたなか、BIGG MACやDa.Me.Recordsの動きが象徴するようにインディー・レーベルや個人レーベルからのリリースという流れがますます見えやすくなってきた。それとともに、SEEDA/DJ ISSOによる〈Concrete Green〉シリーズなどに端を発するミックスCDのフォーマットが、ムーヴメントとして動きはじめたのもトピック。2007年にはある種の地殻変動を呼び込むか?
MSC 『新宿STREET LIFE』 Libra
2006年の幕開けを飾った3年ぶりの新作。90年代のセンスに根差したオーソドックスな音楽性、ストレートな打ち出しと覚えやすいフックに伴うメンバーの合唱スタイルなど、クルーの確立した立ち位置に安住することなく、自分たちの音楽を世に広くフィットさせんとする姿勢が窺える。
YA-KYIM 『STILL ONLY ONE』 ビクター
〈チェケラッチョー〉なヒップホップ解釈が市民権を得たいま、そこに与せずショウビズ的な華やかさと輸入音楽たるヒップホップ・マナーを合致させんとするスタイルが2006年らしい勢いに満ちていた。その一方にある、オールド・スクール趣味もオヤジ泣かせ。
AFRA & INCREDIBLE BEATBOX BAND 『I.B.B.』 ISLAND/ユニバーサル
日本語ラップ界ではなかなか表に出てこなかったビートボクサーに光を当て、TVCM出演で茶の間にもその口技を印象付けた、世界でもほぼ類を見ないビートボックス・ユニットによるデビュー作。海外ツアーをこなすのもその目新しさゆえか。
COMA-CHI 『DAY BEFORE BLUE』 Da.Me.Records
クルーと併せてレーベル、24区を立ち上げたりと、男社会の日本語ラップ界で奮闘した女傑のアルバム。アンダーグラウンドの足枷を外して日常へと続くラップは、KEN THE 390らの活躍と共にいわゆる〈アングラ・メンタリティー〉の形骸化をも感じさせる。
ZEEBRA 『The New Beginning』 UBG/ポニーキャニオン
DMXばりのデリヴァリーを経て野太さを獲得したラップが、彼本来のストレートなラップ・スタイルをひと回り大きくした感もある〈原点回帰〉作。キャリアを重ねたラッパーのあるべき身の処し方を示したひとつとして、2006年を代表する作品と言えよう。
『BLUE CHRONICLE』 MICLIFE
2006年も引き続き大きな潮流を作ったジャジーなムーヴメントを代表するクリエイター4組を集めたインスト・コンピ。オーソドックスなサンプリングを軸に、ラウンジ・ヒップホップとも言い得る聴きやすさを併せ持った音に対する美的センスは、幅広い層に受け容れられるクォリティー。
SCARS 『THE ALBUM』 Pヴァイン
近年顕著な日本語ラップのサグ的メンタリティーの急先鋒として、2006年を彩ったグループのファースト・アルバム。メンバー個々のヴァラエティー豊かなテイストは単なるサグではないが、“A”Thugの過剰な無意識の破壊力は、スタイルこそ違えど565(妄走族)にも匹敵する。
“E”qual 『7 Days』 コロムビア
活況の名古屋を牽引してきた自身の歩みを、アルバムという形で総括してみせた前作を経て、本作での彼は、まるで引き続くシーンの盛況ぶりとは距離を置くかのように、グッとパーソナルな世界観を提示した。まあ彼が背負う必要のないほど、名古屋のシーンが根を張ったということか。
スチャダラパー 『con10po』 FIVE MAN ARMY
自身の姿に言及して時代の空気を切り取ってきた彼らが、10作目にしてあまねく世の中に目を向けた。日本語ラップの世界では意外と薄い社会への問題意識を、毒づくことなく淡々と形にした本作は、彼らがいまだワン&オンリーの存在であることを示している。
MIC JACK PRODUCTION 『Universal Truth』 ILL DANCE
いまなお90年代の呪縛から逃れ得ぬ〈コアな〉日本語ラップの世界観に、音楽性の広がりをもって応えたかのような本作のアプローチは、良い意味の折衷感がある。内省的だった歌詞の世界も広く世へと放たれて、リスナーとの距離をグッと縮めるものとなった。
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