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特集

Depeche Mode(2)

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2006年12月21日 11:00

更新: 2006年12月21日 23:24

ソース: 『bounce』 282号(2006/11/25)

文/妹沢 奈美

みんなに愛される理由

 これまでデペッシュ・モードは、そのダークな資質と影響力の大きさゆえに、もしかしたら難しく捉えられてきたのかもしれない。だから今回まず声を大にしたいのは、〈あの人もこの人も、みーんなデペッシュ・モードのミーハーなファンだった!〉ということだ。例を挙げておこう。ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーも、スマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンも、マリリン・マンソンも――つまり、90年代前半に注目を集めたUSオルタナ界のカリスマたちは、若き日にデペッシュの音作りに魅せられていた人ばかり。また、デトロイト・テクノのパイオニアであるケヴィン・サンダーソンやデリック・メイ、ホアン・アトキンスらもしばしばその影響を口にしている。みーんな、デペッシュが大好きだったからこそ、その音作りにインスパイアされ、そしてそこから未来のサウンドを生み出していったというわけだ。

 さまざまなミュージシャンを魅了していったデペッシュ・モードのサウンドの求心力を紹介するには、やはりデジタル・シンセ黎明期におけるアラン・ワイルダーの実験精神あたりから触れなければならないのだが、少々堅苦しくなってしまうので後回しにしよう。それよりも個人的に興味深いのが、80年にUKはバジルドンで結成し、82年にはメイン・ソングライターのヴィンス・クラークを早々に失いつつも、83年にアランを得ることでマニアックな音へと突き進んでいった彼らが、どうやって逆説的なまでにスタジアム級のバンドに成長していったのか、という過程だったりする。その理由の一端にあると思われるのが、〈ダークで暗い〉と言われがちなサウンドであっても、彼らは決してポップさをないがしろにしていなかったということ。いまでもTVなどでよく耳にするエレポップ期のシングル・ヒット“Just Can't Get Enough”はさすがに突出しているものの、どの曲もとてもリリカルで、キャッチーな親しみやすさを宿していることに改めて気付かされる。仮に〈デペッシュらしさ〉とも形容されるサウンド・アレンジの巧みさに興味を持たずとも、メロディーの良さとデヴィッド・ガーンの渋い歌声が醸し出すハーモニーに惹かれてしまう――そういう楽しみ方もまた真である、懐の深いバンドなのだ。

 実際のところ、バンドの創設メンバーであり、デビュー時のソングライティングを一手に担っていたヴィンスがデビュー作『Speak & Spell』一枚限りで脱退した理由は、〈あまりに急激に人気が出たから〉だそう。それでいて、急遽メイン・ソングライターにならざるを得なかったマーティン・ゴアが書いた、3人組になってからの最初のシングル“See You”は、(誤解を恐れずにいえば)まるでリヴァーブの効いたニュー・オーダー。反則技スレスレのキャッチーなサビまで持ち込んで、見事なポップソングに仕上げている。それだけでなく、ヴィンスの曲にはなかったドラマティックなリリカルさがマーティンの曲には加わるわけだから、いわば求心力倍増である。昔からのファンの中には、ヴィンス脱退後でアランが加入する前の、デイヴとマーティン、そしてアンディ・フレッチャーの3人で作ったセカンド・アルバム『A Broken Frame』(82年)の持つヨーロッパ的な繊細さが見え隠れした曲調がいちばん好きだという人も多いほど。そういえば、アレンジの要でありデペッシュ・モードのサウンドの評価を絶対的にしたアランが95年に脱退し、現在はこの2作目を作った時とまったく同じ顔ぶれで活動を続けているというのも、なんだか象徴的である。

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