HE GOT THE GAME(2)
ドレーとの絆は奪えない
実際のところ、ゲームの曲には西海岸ヒップホップの歴史を作った偉大なアーティストたちの名が頻繁に登場するし、特にNWAや、そのリーダーだったイージー・E、ドクター・ドレーに対する敬意は並々ならぬ熱さを感じさせる。今回の作品においてもドクター・ドレー率いるアフターマスからのリリースではないが、ドレーの手による曲が収録されるのかという点でも大きな注目を集めていた。結果的にドレーの手による曲はないが、あちこちでドレーへの執念にも似た思いが強く感じられるのだ。そのラップが酷似する瞬間も多々あるし、スヌープとイグジビットを招いた“California Vacation”ではジョナサン“JR”ロッテムがGファンク期のドレーを彷彿とさせる鍵盤使いを聴かせていたりもする。アルバム・タイトルは「ドレーや西海岸全体の代弁者という意味」と公言し、早くから話題になっていた“It's Okay(One Blood)”については、「基本的にはオレがドレーの弟子であるってことを言ってるんだ。どんなに他の奴らがオレをヘイトしても、奴らがどんなことをしようとしてもその事実を奪うことはできないんだ」とまで言い放つ。
ドレー不在のアルバムになったことについても、「このアルバムをドレーがプロデュースしたかどうかってことは関係ないと思ってるよ。『Doctor's Advocate』はオレ自身についてのアルバムなんだぜ。最終的にオレが必要としている音を手に入れたんだ。このアルバムを傑作にするのに必要なメンバーを集めたんだ」と強気の姿勢を崩さない。フタを開けてみれば、先に触れた以外でもトラックメイカーにはカニエ・ウエストやジャスト・ブレイズ、スコット・ストーチ、ウィル・アイ・アムら、ゲスト陣にはバスタ・ライムズからドッグ・パウンド、ナズ、ネイト・ドッグ、ファーギー、マーシャ(フロエトリー)まで、確かに錚々たる顔ぶれのアーティストが参加している。が、そのメンツを見てヒット・チャート仕様と決めつけるのは危険だ。どの曲もハードコアなウェストコースト産ギャングスタ・ラップの血を受け継いだものだし、以前から高いリリカル・センスが評価されているように、中身のないただのヴァイオレンス・ラップには終わらない、またしても傑作と呼ぶに相応しい高品質な内容なのである。
アルバムのリリース直前にはロイド・バンクスをコケにしたGユニットへのディス・ソング“Sound Scan”を発表したり、全米各地を代表する23人(!)ものラップ・スターをゲストに迎えた“It's Okay(One Blood)”のリミックスを発表するなど、相変わらずゲームの周辺は騒がしい。リリースだけではない。ゲームはもはや、存在そのものが事件なのだ。『Doctor's Advocate』は、ゲームの存在が揺るぎないことをふたたび証明するに違いない。
▼『Doctor's Adovocate』に参加したアーティストの作品を一部紹介
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