P. Diddy
「ヤング・ジョックにキャシーにダニティ・ケイン、そして俺。バッド・ボーイは完全復活さ。いま自分がもっとも重点を置いているのは音楽だし、自分自身音楽に集中することができた。それが結果に出たんだと思うよ。あとはこの勢いをキープして驀進し続けるだけだね」。
バッド・ボーイ逆襲の口火をきったヤング・ジョック“It's Goin' Down”の大ヒットは、映画「M:i:III」のプロモーションでBETの「106 & Park」に出演したトム・クルーズが同曲に合わせて例のモーターサイクル・ダンスを披露した(そして、その映像が〈YouTube〉などを通じて世界中に配信された)ことに起因しているわけだが、もしそれがアクシデントではなくレーベル側の仕込みだったとしたら、数々の巧妙なプロモーション戦略を駆使して一時代を築き上げたバッド・ボーイが真の意味でかつての推進力を取り戻したと言っていいんじゃないだろうか。いずれにしても、前作から約5年ぶりとなる自身の新作リリースに向けてきっちりとクライマックスを設けてくるあたり、策士P・ディディの才覚はまだまだ侮れたものではない。
あえてリスクを選んだ
「アルバムを出すのに5年もかかったのは、音楽活動から少し距離を置きたいっていうのがあったんだ。それに他にもやらなくちゃいけないことがたくさんあって、忙しくてね。NYシティー・マラソンに参加したり、ブロードウェイのショウに出演したり、フレグランスを発表したりね。もちろんアパレル・ラインの〈ショーン・ジョン〉の仕事もあった。それ以前は毎日スタジオに入って四六時中音楽を聴いてたから、ちょっと音楽から離れてリフレッシュしたほうがいいって思ったんだ」。
さて、本人が挙げてくれた他にも、米大統領選に伴う〈Vote Or Die〉キャンペーンなど、近年のP・ディディはどちらかというと音楽以外の活動が目立っていた印象が強いけれど、そんななかにあって改めて着目しておきたいのが2003年にイビザ島で制作したハウス・アルバム『Let's Get Ill』の存在だ。このディディの大胆な試みは結局ネリー・フーパーがプロデュースを務めたタイトル曲をリリースするのみに止まったが、昨年にはフィリックス・ダ・ハウスキャットとのコラボ・シングル“Jack U vs. I'll House You”を発表して依然ハウスやテクノへの関心を示していたこともあるし、こうした〈イビザ・アルバム〉の余波がどのような形で反映されるかは今回のニュー・アルバムの最大の焦点になっていた。
「旅行の先々でテクノとかいろいろなダンス・ミュージックのクラブに足を運んだんだ。そんな世界で感じたすべての音が『Press Play』には詰まっているのさ」。
いざフタを開けてみると、〈いろいろなダンス・ミュージックのクラブに足を運んだ〉ことの成果が直接的に窺えるのはブランディをフィーチャーしたドラムンベース調の“Thought You Said”ぐらいだったりするのだが、それでも『Press Play』には確実に従来のディディ~バッド・ボーイ作品と趣きを異にするところがある。
「今回のアルバムではあえてリスクを選んだ。安全地帯に留まることだけは避けたかったんだ。それなりの音を作るんじゃなくって、思い切ったアプローチを取ろうと思った。いままでだったら選ばないようなトラックに挑戦したり、フロウやメロディーに変化をつけてみたりね。聴く人すべてを驚かせたかったんだ」。
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