Get Lifted Again
また一歩、伝説に近づいたジョン・レジェンド
いまさらだが、インディー時代のアーティスト・ネームは本名のジョン・スティーヴンス。その後、〈スティーヴンス〉を〈レジェンド〉に変えてメジャー・デビューを果たしたとたん、グラミーで3部門を受賞するなど早くも〈伝説〉となった……と駄洒落っぽく評してみたくなるほど、この男はたった1年半で多くの偉業を成し遂げた。だが、メジャー・デビュー作『Get Lifted』に関して彼は、もっと注目を集めてもいいのでは、と感じていたようだ。
「たった一枚のアルバムじゃ〈レジェンド〉とは呼べないよ。〈レジェンド〉の域に達するまでにはまだ長い道のりがある。オレの一生が終わって初めて〈レジェンド〉かどうかが証明されると思うんだ。もちろん、いつかはそうなりたいけどね。いまでも音楽的に常に実験してるし、どっちの方向に行こうかって迷いながら続けてるんだ。今回は前作以上のチャレンジ精神を持って作ったし、やっと自分の音楽の全貌をあきらかにできたと思ってるよ」。
新作の表題は『Once Again』。作品中にも“Again”“Another Again”というタイトルの曲があるが、〈Again〉という言葉への執着について、ジョンはこう説明する。
「〈繰り返し〉を意味している。人間は何度も同じことを繰り返すだろ? 例えば男女の関係にしても、同じように不信感を持ったりする。そういうテーマでいくつか曲を作っているし、タイトルは1年くらい前から考えていたんだ」。
やや強引ながら、ジョンの楽曲自体もサンプリングなどを用いた、音楽の輪廻転生を意識させるものが少なくない。今回も、例えば先行シングルとなった“Save Room”はクラシックス・フォーの68年曲“Stormy”のメロディーを引用した、ある種ノスタルジックな気分に包まれた曲だったりする。
「プロデュースしたウィル・アイ・アムがクラシックス・フォーのサンプルを使おうと決めたんだけど、オレはオリジナルを知らなかったんだ。それでオリジナルを聴いていろいろ勉強したよ。こういう経験ってすごく貴重だと思うんだ。歌詞は〈誘惑〉をテーマにしたラヴソング。他のメインストリーム・アクトとは違う雰囲気のサウンドなのに、レコード会社は“Save Room”をシングル・リリースするという冒険をさせてくれたんだ」。
これ以外にも、「フォー・トップスの曲をサンプルした、スピナーズを思い起こさせるサウンド」という“Each Day Gets Better”や「コール・ポーターっぽい」というサー・ラー制作の“Where Did My Baby Go”など、何と言うか、前作での“Ordinary People”のように、世代を越えて愛されるような普遍的なメロディーの曲が本作には(にも)多い。
「オレのファンの年齢層ってすごく幅広くて……でも音楽っていうのは年齢や人種とかは関係なく、身体で感じるものなんだから、それが正しいあり方なんだとも思うよ。Good music is good music! いい音楽はいい音楽だ」。
そんな心意気は、「古いヴィンテージ感を出しつつアーバンなイメージを狙った」というアルバム・ジャケットにも表れていると思うが、とはいえスノッブにはならず、彼の音楽にはとても人懐っこい雰囲気がある。客演の依頼も多いジョンだが、『Once Again』にはメアリーJ・ブライジを迎えた“King & Queen”以外、基本的にゲスト参加はナシというシンプルさも、彼独特の味わいを強めている。
新作の制作期間は5か月。プロデュースにあたったのは、所属レーベル〈G.O.O.D.〉の主宰者で志を同じくするカニエ・ウェストを筆頭に、ウィル・アイ・アム、デイヴ・トーザー、ディーヴォ・スプリングスティーン(デヴォン・ハリス)ら前作でも組んでいた気心の知れた人たち。またラファエル・サディーク、先述のサー・ラー、クレイグ・ストリートのような奇才まで、ジョンの音楽と共振するような面々も駆けつけた。さらに19歳だというエリック・ハドソンのような新鋭の起用もある。カニエがジョンの才能に目をつけたように、今後はジョンが新しい才能を発掘していく機会も増えていくのかもしれない。
「弟のヴォーン・アンソニーがこれからセキュラー・シンガーとしてデビューする予定なんだ。それと(以前関わった)UKのエステルという女の子のプロジェクトを手掛けてる。ホーム・スクールっていう自分のレーベルを立ち上げて、そこから彼らのアルバムを出そうと思ってるんだ。オレが全面的にプロデュースしてるよ」。
近年目立ちはじめたR&Bシンガー・ソングライターの活躍については、「そういったムーヴメントには多少なりとも貢献できたと自負している」と話すジョン。早くも次の一手が気になるが、何か企みはあるのだろうか。
「いや、教えたくない。だって、他の人にそのアイデアを盗まれちゃうかもしれないだろ(笑)」。
確かに。グッド・ヴァイブに溢れたジョンの音楽には思わず盗みたくなるような要素がいっぱい。新作を聴いて、改めてそう思った。
▼ジョン・レジェンドの作品を紹介
▼『Once Again』に参加したプロデューサーの作品を一部紹介
- 前の記事: 秋の夜長のR&Bコレクション
- 次の記事: 過去と未来を行き来するジョンの外部活動