IN A MAJOR WAY
DJシャドウはどこへ向かうのか?
「『Endtroducing...』が好きなら、『Private Press』とかを聴けばいいよ。人は俺を勝手にカテゴライズするんだ。〈アイツはサンプリング・アーティストだ〉とか〈彼はアングラ・ヒップホップの人で、コマーシャル・ラッパーとは仕事しない〉とかね。ほとんどの人は俺の音楽的な視点を完全に理解していないよ。だから、俺の音楽性のすべての要素を反映した新作を作りたかった」。
文字にするとなかなか厳しいこの言葉を、DJシャドウが発しているというのだから驚きだ。が、シャドウに衒いや迷いはない。ベイエリアの荒武者、キーク・ダ・スニークとターフ・トークの2人をフィーチャーした先行シングルの“3 Freaks”では、同地を席巻するハイフィーに挑んでいる。
「スタジオに入った時、2人は俺のことを知らなかった。いまは何者だかわかってくれてるけどね(笑)。ストリートからどんなヒップホップが出てきてるかチェックするのは大事だと思う。〈オールド・スクールとしか仕事しない〉とか、そういう考え方は安全すぎる。やったことがないものに挑戦するのは、自分を発展させるのに良いことだよ。この曲で初めてラジオで自分の曲を聴けて、それは自信になったね。ベイエリアで俺のことを知らなかった人も〈“3 Freaks”は素晴らしいけど、他にこういう曲ないの?〉って言ってくれたし。ただ、ハイフィーをやろうとする前から、コンピューターで制作したいと思ってたんだ。『Private Press』を作り終えた後、MPCを使ってこれよりも凄いサンプリング・アルバムを作ろうとするのは時間のムダだと思ったんだ。いまはソフトウェア・シンセを多用しているよ」。
その名も“Hyphy”を生み出したフェデレーションと、ベイエリアのダンス・チームであるアニマニアックスを迎えて「ターフ・ダンスをテーマにした曲」に仕上げた“Turf Dancing”や、「彼がいないと〈オフィシャル〉じゃない感じがした」というE-40とのコラボ“Dat's My Part”など、いくつか用意されたハイフィー・チューンはいずれも刺激的だ。ただ、「俺は自分がハイフィー・アーティストだと訴えたいわけじゃないよ。でもハイフィーは音楽的に好きだし、俺のできることで貢献したいんだ」と話す彼は、いみじくも〈はみだし者〉と題されたこのアルバムで、どこにも属さないがゆえの多様性を開陳している。実際、最初にコラボしようと思ったのは“Seein Thangs”に登場するデヴィッド・バナーだそうだし、服役中だったために実現しなかったものの、ミスティカルやプロジェクト・パットとも組んでみたかったという。トラック面でも決して過去のファンを置き去りにしてしまったわけではなく、フォンテ(リトル・ブラザー)がイキイキとラップするサンプリング・ビートの“Backstage Girl”もあるし、クアナムからラティーフを呼び寄せてQ・ティップをフィーチャーした“Enuff”もある。さらにはカサビアンのサージ・ピッツォーノとクリス・カルロフ(現在は脱退)を迎えた“The Tiger”や、結局幻となった(?)ザック・デ・ラ・ロチャのソロ作用に作られた“Artifact”など、ロックにソースを求めたサンプリング・トラックも格好いい。アルバムを聴き進めるに従って、冒頭の発言の意味も見えてくる。〈全部ハイフィーだったらイイのに〉とかいう人や〈ハイフィーがなければ良かったのに〉という感想を抱く人もいるはずだが、その多様性を彼はあえて選んだのだ。
実は危機一髪の交通事故に遭ったことで、彼は〈やりたいことはやれるうちにやる〉という決意に至ったのだとも聞く。
「ああ。前は〈ファンがついてきてくれるだろうか〉っていうことを心配してた。いまも気にしてないわけじゃないけど、自分がやりたい音楽を我慢するわけにはいかない。人が批判的なことを言う時って、未来を恐れていたり、ついてこれないからだと思うんだ。だったら休んでてもいい。だけど、俺は前進し続けるだけだよ」。
シャドウの新しい道はまだまだ拓かれたばかりだ。
▼『The Outsider』に参加したハイフィーな面々の作品
キーク・ダ・スニークの2006年作『Kunta Kinte』(Next Level/Sum Day)
ドゥループ・E&B・スリムの2006年作『The Fedi Fetcher & The Money Stretcher』(Sick Wid' It)
▼『The Outsider』に参加したアーティストの作品
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