GANGSTAFIED
ダズ・ディリンジャーが狙い撃つ新たなステップ
「ダズはやっぱりドッグ・パウンドなのさ」。
ドッグ・パウンドとしての復活作『Cali Iz Active』を今夏にリリースしたばかりだというのに、新しいソロ・アルバムを早くも完成させたダズ・ディリンジャーはあたりまえのように言い放つ。
「俺はいつだって俺なんだ。誰かのために変わったりしない。リック・ロスとの“On Some Real”ではサウスのビートに乗ってるかもしれないが、俺がラップしているのはウェッサイのことなんだ。今回はすべてのフレイヴァーを組み合わせてみたわけさ。ステップアップってやつだな」。
そのニュー・アルバム『So So Gangsta』は1年以上も前から伝えられていたように、JDことジャーメイン・デュプリが主宰するアトランタのレーベル=ソー・ソー・デフからのリリースとなった。南部のレーベルであることや、シーンの流れを考慮すると今作もトレンドに追随した作風になるのかと想像したが、冒頭の言葉のようにダズはやはりドッグ・パウンドだった。アルバムのどこを切ってもウェッサイ。オープニングの“Thang On My Hip”から鋭利なフロウで斬り込み、“Rat A Tat Tat”や“Money On My Mind”ではGファンク黄金期を思わせるサウンドで水を得た魚のようなラップを披露。しかし、そこには従来のスタイルに加え、確実に従来路線から一歩踏み出して細かな多様性を含有する進化したウェッサイ・スタイルが完成されていることに気づくだろう。強盗のクライム・ストーリーを語った先述の“Thang On My Hip”や、デビュー作が待たれるR&Bシンガーのジョンタ・オースティンとの“Weekend”、ジャギド・エッジを迎えて「ほとんどのカップルが経験すること」をライムに綴った“The One”など、リリック面での広がりも感じさせる力作だ。
「『So So Gangsta』は、いわば全方位というか、みんなにウケる音楽なんだ。あらゆる方面をカヴァーしている」。
こんな発言を聞くと、ダズが新作のリリース元としてソー・ソー・デフを選んだ理由にも納得がいくというもの。
「バスケットボールのチームと同じさ。LAではもう30年もやってきたような気がするから、そろそろもっと大きくて上手いチームに参加したくなったんだ。それがソー・ソー・デフだったってこと。いっしょに組むことで俺も次のステップに行けるし、レーベルもウェッサイというステップに行けるわけさ。ファンはドッグ・パウンドのサウンドを聴きたがってるし、JDだってそれはよくわかってる。だから彼とやることにしたんだよ」。
恋愛における出来事を取り上げた先述の“The One”について、「個人的な曲なんだ。誰しも恋愛関係の中で経験する内容さ。喧嘩したり、文句を言い合ったり、別れたり、また元の鞘に戻ったり……いろんなことが起きるものなんだ」と語るダズ。強引なこじつけかもしれないが、これらの出来事はアーティストとしてのダズの身辺で起きたこととも共通するのではないか? デス・ロウが一時代を築いた後で崩壊。共に時代を席巻した仲間たちは離合集散を繰り返し、今年になってふたたび大きなムーヴメントとしてまとまりを見せはじめている。再生までに長い時間を要したとはいえ、個々の過ごした時間のなかで意識も変わり、それぞれの活動が経験となって実を結んできたのだ。ゆえに、サウス仕様になるかと思われた本作にアイス・キューブやスヌープ・ドッグ、そして相棒のコラプトが参加しているのも自然な流れだろう。2000年から20枚近くのインディー作品を自主レーベルから投下してきたダズは、活動継続の秘訣を「要はプライシングとポジショニングってやつさ」と軽く言ってのける。
この発言が口先だけではなく、そしてここまでの時間も決して無駄でなかったことは、アルバムを聴けばわかるだろう。
▼関連盤を紹介
ダズ・ディリンジャーの2005年作『Tha Dogg Pound Gangstaz LP』(Gangsta Advisory)
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