BIGGER AND DEFFER
2006年の新人王は最強のハスラー、リック・ロスに決定!
「俺は305(=マイアミのエリア・コード)の代表だぜ。だが、俺の音はこの街を越えた世界へと広がる。俺の音楽はUGKからジェイ・Zまで網羅してるんだよ。ボーダーのない音楽。市外局番なんて付いちゃいないのさ」。
スリップン・スライドとデフ・ジャムがジョイントする形でメジャーの舞台に登場した超大型新人、リック・ロス。彼がいま身に纏っているヴァイブは、2005年にヤング・ジーズィが立ち昇らせていたオーラと似たようなものだと言ってもいい。つまり、エリアやスタイルを飛び越えた部分で圧倒的な期待感を背負い、否応ナシにヒップホップ・シーンのド真ん中を突き進むことのできるゴールデン・ルーキーだということだ。実際にロスのメジャー・デビュー・アルバム『Port Of Miami』は、ジーズィの『Let's Get It : Thug Motivation 101』以来の圧倒的な重量感と威圧感を伴って、シーンに地響きを巻き起こしている。すでに別掲のダズ・ディリンジャーやトゥー・ショート各々の新作に参加し、レーベルメイトであるニーヨが新たにシングル・カットする“Stay”にもフィーチャーされるなど、その大物ぶりは各方面で発揮されはじめているものだ。
とはいえ、このマイアミの大砲は、いわゆる新人選手ではない。同郷の先達であるトリック・ダディの“Let Me Ride”やトリーナの“Told Y'all”など、2000年代前半にいくつかのスリップン・スライド作品にフィーチャーされていた彼はその当時からレーベル期待の新人だったのだ。その後はしばらくブランクもあったようだが、ボーイズン・ザ・フッドの“Bitches & Bizness”で威風堂々たるラップを聴かせ、ふたたびトリーナの“I Gotta”に登場、そしてマイアミの大ボスであるルークの引退作にも客演……と着実なステップを経て登場したのが今回の『Port Of Miami』だということになる。チョッピンなフックを活かした先行カット“Hustlin'”の流れで、新進チームのランナーズが“Where My Money(I Need That)”などの圧殺チューンを手掛ける一方、クール&ドレーによるキャッチーな楽曲がメロディアスなアクセントを加え、絶好調のジョナサン“JR”ロッテムやエイコン、ジャジー・フェイ、マリオ・ワイナンズといった面々も腕を振るっている。ジェイ・Zとヤング・ジーズィを迎えた“Hustlin'(Remix)”のようにゲスト面でも話題の多い作品だが、何より強力なのは用意された要素のすべてをクールかつハードコアな低音のヴォイシングでゆっくりと踏み潰していくような主役のラップそのものだ。
「俺はこのアルバムを『Reasonable Doubt』と『Ready To Die』の伝統に則ったものと見ている。コイツは歴史に残る一枚として作られたんだ。皆を立ち止まらせて、シーン全体について改めて考えさせるような作品としてね」。
ジェイ・Zとビギーの名作を引き合いに出すのは傲慢なのか、それとも……。
▼リック・ロスの参加した作品を紹介