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Johnny Cash(3)

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2006年09月21日 12:00

更新: 2006年09月21日 20:11

ソース: 『bounce』 279号(2006/8/25)

君につづく道

 そのリハビリ期間、どん底まで落ちていた彼の精神状態に、一筋の光明を与え続けていたのが(彼が少年時代に憧れ続けたカーター・ファミリーのアイドル・スターである)ジューン・カーターの存在だった。55年のデビュー直後のツアーで初めて出会い、63年にはジューン作の“Ring Of Fire”を歌ってカントリー・チャートの1位に送り込んでもいたキャッシュと彼女の関係だが、事実はキャッシュの一途な思いに対し、アウトロー的な虚勢を張った生き方に〈ついていけない〉と、ジューンが拒み続けていたという経緯もあるようだ。だが、彼のどん底状態を見たジューンの友人としての献身は、やがて本当の愛へと変わっていく。ジューンの看護を得て立ち直ったキャッシュは68年にシーンにカムバック。伝説のフォルサム刑務所でのライヴ録音を敢行して、そのアルバムはカントリー・チャートに92週、ポップ・チャートに122週もランクインし続ける大ヒット作となる。そこにはアウトローとして無理に虚勢を張っていたかっての姿はなく、〈貧しい人たち、打ちひしがれた人たち、絶望のどん底、貧民街で生きる人たち〉の気持ちの代弁者として歌い続けることこそが自分に与えられた使命である、とはっきり自覚した力強い男の姿がある。〈愛し、愛されたい〉という渇望を、ジューンの愛によってようやく満たすことができたキャッシュ。この時点が、本当の意味で彼が自分の人生を生きるスタートラインであったと考えていいのではないだろうか。同年にはオンタリオのコンサート舞台上で演奏中にジューンにプロポーズ。2人は翌週にケンタッキーで結婚した。

 それ以降のキャッシュの音楽は、力強く迷いがない。69年のボブ・ディランとの“Girl From The North Country”のデュエット。同年から開始したTV番組「The Johnny Cash Show」では、ディランやニール・ヤング、ジョニ・ミッチェルらを次々とゲストに招き、カントリー音楽の範囲に止まらない意欲的な活動を継続。70年にはヴェトナム戦争と真摯に向き合ったアルバム『A Man In Black』を発表して喝采を浴びる。一方ではディランが〈大地とカントリーそのもの〉と評したような歌声を朗々と響かせ、カントリー音楽の真髄を伝えるような名曲もたくさんリリース。さらに94年以降はリック・ルービン主宰のアメリカンにてふたたびゴスペルに真正面から取り組み、自分を生かし続けてくれたものすべてに対して感謝を捧げるような深く温かみに満ちた歌声を披露。ブルース・スプリングスティーンやベックら後進の曲も意欲的に取り上げながら、充実した創作活動を続けていく。

 2003年7月、最愛の人、ジューン・カーター・キャッシュが73歳で他界。そして2か月後の9月、その後を追うようにキャッシュは71歳で他界。これほどの真実の愛が本当にこの世に存在したということに、感動を覚えない人はきっとひとりもいないだろう。

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