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進化を続ける反逆児が、女性ならではの温もりで世界を包み込んだら……


  ジャマイカで、ひとりのシンガー・ソングライターが言葉で革命を起こす。タンヤ・スティーブンス。彼女はダンスホールにありがちな性的能力・魅力の自慢を一切せず、とことん現実的なシチュエーションを曲にする。ニュー・アルバム『Rebelution』は、傑作だった前作『Gangsta Blues』で確立したスタイルをさらに追求した仕上がり。

「前作は他のレゲエとまったく感じが違ったから、どの程度受け入れられるか予想がつかなかったけれど、ストリートからも海外の批評家からもウケが良くて、自分でもびっくりした」と笑う。タイトルは〈反抗〉と〈進化〉を掛け合わせた造語。

「私は自分の生き方についてとやかく言われたくないし、ほかの人の生き方にも口を挟みたくない。その点が反抗的なのね。お互いを受け入れるために、流血を伴わない革命を起こす必要があるのよ」とタンヤ。「他人に干渉しないのが平和への近道」とも彼女は言う。噂好きのジャマイカでは斬新な提案で、だからこそ支持率が高いのだろう。愛した男がみすみす他の女性と結婚する現場を眺めている女性(“Da-mn You”)、ちゃんと帰すからガタガタ言わないでと言い切る愛人(“Still A Go Lose”)。

「いろいろな女性を演じ分けているのでなくて、実在する女性像を歌っているだけ」と彼女はサラリと言う。タンヤ自身には、プロデューサーのアンドリュー・ヘントンが公私共にパートナーとして付いているのだが。

「作詞は2人で冗談を言いながら進める。笑っていられれば大丈夫だと思っているから、シリアスなトピックでも絶対におかしいところを入れるの」。

  ファースト・シングル“These Streets”のプロモ・クリップはジャマイカのカルト映画「Shottas」をなぞって、オリジナル・キャストのスプラガ・ベンツやキマーニ・マーリーも出演している。この映画、劇場公開が見送られたのに海賊版で観ている人が多く、人気が高いのだ。スプラガとは共感するところが多いとか。また、「いつか詩集を出したい」と話す彼女は、好きなアーティストとしてダブ・ポエットのムタバルーカのほか、ラッパーのモス・デフの名前も挙げる。

 タンヤの音楽は間違いなくレゲエだが、シェリル・クロウやインディア・アリーといったアーティストたちとステージを共有できるポテンシャルも持っている。〈レゲエ〉との肩書きが足かせになっていると感じてないのだろうか。

「私はレゲエが大好きで、ダンスホールが大好き。アコースティック系のシンガーたちと自分の音楽との類似性も自覚しているけど、いっしょのカテゴリーにいる必要はないとも思う。前作を〈ダンスホール作品だと思われたくない〉と発言した時、誤解して気を悪くした人たちがいたの。私はダンスホールもやるけど、あの作品に関しては違うということが言いたかっただけなのに。私はダンスホールでもラヴァーズ・ロックでも、何でも歌えるアーティストでありたい」と言ってから、「私が書いた歌詞を世界中の人がシェアしているいまの瞬間自体を楽しんでいるから、それ以上は特に望んでいない」と付け加えた。

 自然体の革命家による真摯なレゲエ、堪能されたし。
▼タンヤ・スティーブンスの作品を紹介

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2006年09月07日 12:00

更新: 2006年09月21日 21:36

ソース: 『bounce』 279号(2006/8/25)

文/池城 美菜子

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