2006年の主役は何と言ってもこの男!
それが本当のジャマイカなんだ
ジャマイカでは昨年の暮れから、アメリカを筆頭とする他国でも現在大爆発中のヒット曲“Ghetto Story”を引っ提げて、シャムがメジャー・デビュー・アルバム『Ghetto Story』をリリース。風をまいて疾走するヴァイブス・カーテルやビジー・シグナルとはまったく個性の違うDJスタイル。地声の強さを活かして、ヒタヒタ、ジワジワとフレーズを重ね、独特のライミングと歌詞で聴衆に火を着ける。ドスの効いた迫力を感じさせるクールなスタイリストという点で、彼の右に出るものはいない。前述の“Ghetto Story”は、ダミアン・マーリー“Welcome To Jamrock”などと比べても、より生々しいジャマイカの姿をリリックスにしている。
「スタジオでレコーディングしている時に、プロデューサーのデイヴ(・ケリー)が〈もっとパーソナルな曲を作らないか?〉って提案してきたんだ。もっと自分たちのリアル・ライフに近い曲をね。それでこの曲を書くに至ったんだ。自分が育ったジャマイカで小さい頃にあった出来事、いまでも普通に起きていることをね」。
確かにミュージック・ノワールというには生々しすぎるヴァイオレンス描写が多いリリックスは、ジャマイカでも波紋を呼んだ。
「でもそれが本当のジャマイカなんだ。だからといってそれを恥じるようなことでもないと思っている。それは今の自分自身を作った環境だし、それがリアルなストーリーなんだ。それはジャマイカに限ったことではなくて、世界中の貧しい国々にこうした子供たちがいるはずだ。アリシア・キーズだって言ってたよ。彼女の通学路にはピンプがたくさん立っていて、小さい女の子に声を掛けたりしてたって。そこはNYのマンハッタンだぜ。彼女の家も貧しかったから、ご飯の上にタマネギだけを乗せたものを食べてたって。ジャマイカではご飯の上にバターだけ乗せて食べている。だからどこも貧しいところは同じような経験をしているんだ。ゲットーには共通点があるってことだよ」。
発言中にも出てくるアリシア・キーズとは“Ghetto Story”のリミックス(日本盤のボーナス・トラックに収録)で共演。その内容たるや、今年を代表するボムになること確実だ。それはさておき、このアルバムが世界中にアピールする準備はすでに整っている。プロデュースはすべて、デイヴ・ケリーによるもの。“Badmind”でのベースレス・サウンドの斬新さ、“Tic Toc”のファニーなファンキーさなど、全編隙のないプロダクションを聴かせてくれる。
「デイヴはハードコアなプロデューサーなんだ。もちろん彼はいい曲を書くことで知られているけど、彼をいちばん象徴しているのは〈ハードコア〉ということ。彼はハードコアをポップな世界に持ってくることができる唯一のプロデューサーだと信じているよ」。
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