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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2006年08月10日 21:00

更新: 2006年08月10日 23:05

文/出嶌 孝次

社会派ギャングスタにしてウェッサイ・シーンの番人、アイス・キューブは燃えている!!

 毎度のごとく日本では劇場未公開だからして、「ボクらのママに近づくな!」というタイトルを聞いてすぐにピンとくる人も少ないとは思うが、これはアイス・キューブの主演映画である。ラッパーのハリウッド進出は後を絶たないが、キューブがそういった面々と一線を画しているのは、みずから脚本も執筆した主演映画「フライデー」(95年)や演技への評価を確かなものにした「バーバーショップ」(2002年)、日本でもヒットした「トリプルX ネクスト・レベル」(2005年)など、もはや俳優として完全にエスタブリッシュされていることだ(映画製作会社も所有している)。ただ彼は、同じようなコースを歩んできたウィル・スミスのように〈ラップもやる人だったの?〉などと言われてしまうこともない。あくまでもラッパーとアクターという二足の草鞋をどちらにも寄りかかることなく履きこなす唯一無二の存在なのだ。

 そして、このたび6年ぶりに届けられたニュー・アルバム『Laugh Now, Cry Later』は、キューブの存在感がウェッサイ・シーンのみならずメインストリームのヒップホップ・シーンにおいていまなおトップ・クラスに位置することを明白に証明するものとなった。しかも今回は自身のレーベル=レンチ・モブを再興しての、本気の仕上がりである。

「メジャー・レーベルがやることなど、すべて自分でできるって証明してやるよ。今回は他人の意見やスケジュールを気にすることなく、好きなようにレコーディングできた。つまり、自由な環境がこのアルバムのサウンドを形作ったのさ!」。

 そう満足げに語る今作でまず耳を惹くのは、激しい口調で吐き出されるキューブのラップそのものだ。ゲストにはスヌープとリル・ジョン、コケイン、盟友のWCを招いた程度で、近年のメインストリーム作品では珍しいくらい主役のラップが強調されているのもその一因だろう。スコット・ストーチ製のヒプノティック・ビートに乗って合衆国のシステムを糾弾する“Why We Thugs”、ブッシュ大統領やシュワルツェネッガー州知事をブッ叩く“The Nigga Trap”など、リリックの容赦ない激しさも衝撃的なソロ・デビュー作『AmeriKKKa's Most Wanted』(90年)を思わせるハードさである。〈こんなキューブを待っていた!〉という往年のファンも多いのではないだろうか? また、“Child Support”では数多のギャングスタ・ラッパーたちをガキ呼ばわりして〈ギャングスタ・ラップの父〉〈シーンの番人〉としての立ち位置をアピールしているのも印象的だ。一方で「社会的な論評ばかりするのは間違いだ。ヒップホップを愛してるっていう楽しい側面も忘れちゃいけない。そのほうがアルバムを楽しく聴けるだろ?」と話すように、彼は眉毛を吊り上げているだけではない。

 そうやって巧みに練り込まれた『Laugh Now, Cry Later』は、凡百のラッパーには太刀打ち不能な破壊力とヴェテランならではのバランス感覚に富んだ快作だ……とても「ボクらのママに近づくな!」の続編撮影に入っている人とは思えないほどに。

▼アイス・キューブの関連盤を紹介

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