PET SHOP BOYS
「なぜみんな、あんなに軽くて馬鹿馬鹿しいポップ・ミュージックが好きなんだろう。僕は大好きだけどね」──ニール・テナントはかつてこのような発言を残している。なんてヒネくれた人! ただ、その言葉に、彼とクリス・ロウが走らせるペット・ショップ・ボーイズ(以下PSB)のコンセプトを見ることは容易だ。25年という長いキャリアがありながら、しかも常にトップ・クラスの成功を収めながら、彼らの表現や意見表明は常に音楽によってのみ行われる。〈音楽に集中していない音楽家が音楽評論でより重用される〉というパラドキシカルな状況はビートルズという人たちが虚勢を張って以来、長らく世間に横たわっているが、それゆえにPSBの音楽は正面切って論じられずにきた。もちろん、頭の切れる2人にはそんなこと百も承知だろうし、そのほうが心地良いのだろうが。
そんなPSBは、素晴らしいニュー・アルバム『Fundamental』をリリースしたばかりだ。すでに〈エレクトロニック・ポップのゴッドファーザーらしい作品〉と手放しの絶賛を受けている同作は、名プロデューサーのトレヴァー・ホーンが18年ぶりに関与した作品としても話題だ。ちなみに18年前にトレヴァーが関わった楽曲として“Left To My Own Devices”を記憶している人もいるかもしれないが、そこには〈チェ・ゲバラとドビュッシーがディスコ・ビートで踊る〉という示唆的な一節が収められている。ゲバラとドビュッシーという奇妙な取り合わせ、それはすなわちクリスとニールのバランスでもある。こんなもったいぶった書き出しをもしニールが読んだら、恐らくは鼻をフフンと鳴らすのだろうが。
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