Introduction――あらゆる音楽の、魂の故郷
あらゆる音楽の、魂の故郷
厄介な訪問者、ハリケーンのカトリーナがニューオーリンズの街でメチャクチャ暴れまくった夏の終わりからもうすぐ1年が経つ。それから数多くのチャリティー・アルバムが制作され、またライヴも開催された。今年の名物フェス〈New Orleans Jazz & Heritage Festival〉には、ブルース・スプリングスティーン、ポール・サイモン、そしてボブ・ディランなどの大スターが参加し、大いに賑わったというニュースも入ってきた。とにかく、国内外の第一線で活躍する音楽家たちが、復興支援のために素早い行動を見せたわけだが、それぞれに、〈心の故郷〉へのご恩を返したい、という思いが滲み出ていたのが印象的だった。
ジャズやソウルやロック、そのほかレゲエなどにまでニューオーリンズ音楽は多大な影響を与えてきた。何といっても同地で生まれた音楽が持つ〈豊かなリズム〉、これこそが多くの演奏者を魅了し、また創作のヒントを与え続けてきた。多くの音楽家たちから愛されるのは、単純にジャズが誕生した街、ルイ・アームストロングやジェリー・ロール・モートンが生まれた街って理由だけではないのだ。ニューオーリンズは、クロス・カルチャーの街、という特徴があり、それがかの地の音楽にも明確に反映されている。大昔、この街はフランスの植民地であり、交易拠点として機能していた。その後スペインの統治下に置かれたりもし、次第に多様な人種が入り乱れる街が形成されていく。そして、白人と黒人の文化が混じり合ったクレオール文化が生まれ、そこにハイチやマルチニークなどカリブの島々の移民たちの文化も混入されるという複雑で特殊な歴史が作られた。例えば、ブラック・インディアンらによるマルディグラ・パレードなどはそういう混淆文化を象徴するひとつ。そのパレードを彷佛とさせるリズム、いわゆるニューオーリンズ産の曲でよく聴かれるリズムは〈セカンドライン〉と呼ばれるが、これもアフリカンにカリビアンのリズムなどがミクスチャーされて生まれたものだ。
そういう混淆文化がジャズを、また地域色の強いリズム&ブルース、ソウルなどを生み出していったわけで、50年代にはプロフェッサー・ロングヘアやロックンロール・スターのファッツ・ドミノが、60年代にはセカンドラインを明確に意識したリズム&ブルースをさまざまなシンガーと組んで作ったアラン・トゥーサンや、彼とオリジナルなファンクを作ったミーターズが、そして70年代後半にはロックやソウル、アフリカ音楽などの要素を呑み込んだ音楽性を持つ実にニューオーリンズ的なバンド=ネヴィル・ブラザーズが登場し、ニューオーリンズを象徴するスタイルを携えて素晴らしい音楽を聴かせた。もちろんそれ以降も優れた音楽家たちは現れ続けている。かくもユニークな面々を輩出した街、ニューオーリンズ。彼らの音楽を頭のなかで鳴らしつつ、思わず〈やっぱり故郷なんだよなぁ〉と呟きを漏らしてしまう。さぁ、これから彼らの世界を紹介していこう。
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