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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2006年06月08日 16:00

更新: 2006年06月08日 20:04

ソース: 『bounce』 276号(2006/5/25)

文/岡村 詩野

日常生活から生まれた優しいレベル・ミュージック


  「僕は歌うのが大好きで、ギターは僕にとって人生そのもの。上手くなるには練習が必要だけど、僕はギターを弾くことを練習とは感じないんだ。テキトーに歌を作って遊んでいる感じ。ただ遊んでいるだけだから、僕は音楽を仕事と思ったことはないんだよ」。

 この発言を聞けば、〈サーフ・ロック〉と呼ばれるシーンの連中がなんと享楽的であることかと怒りを覚える人も出てくるのではないかと思う。確かに、サーフィンの合間にアコギ片手に緩いグルーヴをハッピー・ヴァイブで……といったような彼らの歌から、目に見えてあきらかなクリエイティヴィティーを感じ取ることは一見難しい。しかしながら、2000年代に入ってから急激に台頭してきたシンガー・ソングライターの新潮流のひとつとして捉えてみると、ブルースやフォークをより日常的なレヴェルで体内に染み込ませたそれらの歌からは、かつてジェイムス・テイラーが〈Oh Baby, Don't You Loose Your Lip On Me〉と歌い、キャロル・キングが〈You've Got A Friend〉と歌ったあの頃のシンガー・ソングライターたちがそっと放っていたものにも似た、戦争社会への静かな反発、そして平和へのメッセージが透けて見える。現在はオーストラリアに暮らすウィル・コナーのセカンド・アルバム『Ticket Out Of Here』も、そうした歴史の循環と輪廻を感じさせる作品だ。

  「お母さんのお腹の中で僕はジェイムス・テイラーやキャロル・キングを聴いていたから、もしかしたら潜在的に似てきてしまうのかもね(笑)。実際、僕はブッシュのやり方は最悪だと思っているし、歌を歌ううえでそういう意識が働いているのかもしれない。だって、どんな人間だって根本は平和な人生を送りたいと願っているはずだろう? 世の中に悪は存在するかも知れないけど、僕は悪より善が多いと信じているんだ。〈喧嘩するならダンスしよう!〉って言いたいね」。

 ひとりの女性と出会い、そして別れていくまでが綴られた今作は、まさにパーソナルな視点で描かれた作品と呼ぶに相応しい一枚だ。彼女との思い出を振り払うように生まれ育った町であるバイロン・ベイに戻り、サーファー仲間や親しいミュージシャンらと共にレコーディングした今作からは、何より日々の暮らしを大切にしようとしているウィルの身上がさりげなく浮かび上がってくる。〈音楽=生活〉と言い切る彼にとって、ミュージシャンやサーファーという垣根はない。そこにあるのは人と人との絆と信頼感、そしてそこからもたらされる喜びや悲しみだ。

「プロ・サーファーのデイヴ・ラストヴィッチが“Life”でコギリというガーナの打楽器を演奏してくれたんだ。さらに“Heads”ではディジュリドゥにも挑戦していたし、水を張った鍋やヤカンを叩いてもいるんだよ。そのうち自分の顔もひっぱたき出したからみんな大爆笑! 転げまわって笑ったよ。僕はボブ・ディランの『Highway 61 Revisited』とニール・ヤングの『Harvest』の音の質感が好きなんだ。それは温かみのある音だからね。そういう雰囲気を僕のアルバムから感じ取ってもらえれば嬉しいよ」。

 アルバム制作中には、「家族ぐるみの付き合い」だというジャック・ジョンソンが訪ねてきたり、サーフ映画の監督や製作者たちとの交流が深まったりと、友達や仲間との出会いや交流がウィルに大きな刺激と勇気をもたらしたという。本作の中のそうしたフレンドリーな空気が伝えてくれるもの、それこそが戦争のない世界を求めるウィルの気持ちの表れかもしれない。

  「僕は旅好きでね。いつもヤマハのナイロン弦ギターを持って出かけるんだ。以前、高級なギターも買ってみたんだけど、やっぱり昔から家にあるこのギターのほうが良い音を出すんだよ。だから僕はどこへ行くにもこのギターといっしょ。レコーディングもほとんどコレを使っているよ」。

 ウィルにとっては楽器もまた仲間。魂を持つものすべてに手を差し伸べる、彼はそんなシンガーと言えるかもしれない。

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