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HAJIMETE NO WAGAKO NI

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2006年05月18日 11:00

更新: 2006年05月18日 20:28

ソース: 『bounce』 275号(2006/4/25)

文/桑原 シロー

〈息子〉高田漣が語る、〈親父〉高田渡


「子供の頃、TVCMでエノケンの“私の青空”が使われてて。僕は、てっきりウチの親父が歌ってるとばかり思ってた(この曲は高田渡の十八番曲)。違うと知ったときはショックだったなぁ(笑)。唯一好きな歌といってもよかったから(笑)。葬式では、親父を送り出すときにあの曲を流したんですよ。で、こないだハワイに行ったとき、街角で歌を歌ってるおじいさんがいて、“私の青空”をやってた。それを聴いたら、なんかジーンときちゃって」。

 ほろりとさせるいい話だ。どうしようもなく、“漣”という曲が好きなのである(アルバム『FISHIN' ON SUNDAY』収録)。野原で息子・漣と二人佇む情景が描かれたこの小品、素の渡さんがそこにいるようで、昔っから聴くたびに胸がジ~ンとくるんだと、歌の登場人物である漣くんに話す。

「そもそも、親父は自分のことを歌うのって得意じゃない。でも、あの曲の親父は、自分が子供の頃に見てた親父とまったく同じ。ほんと、ああいうテンポの喋り方だったから」。

 聞き手に、〈これは自分の音楽なのだ〉と思わせてしまう、それが高田渡音楽の魅力だ。そういう話をすると、漣くんはフフフン、と微笑む。彼と渡音楽との微妙な関係。その微妙な距離感を理解することなど土台無理な話なんだけど。「なんせ普通の父親じゃなかったから」という一言に含まれているいろんな思いも、当然ながら理解は不可能だ。

 大好きなエピソードがある。漣くんが大学に入ったとき、〈彼に渡して〉と奥さんから10万円を預かった渡さん。校門のところまで行ったが、彼の元気な姿を確認したので、そのお金を持って飲みに行っちゃった、という。その話を思い出すと、なぜだか“漣”の歌詞が思い浮かんできて、じ~んとしてしまう俺。さて、音楽家としての尊敬すべき部分を訊いてみる。

「ライヴは、良いときと悪いときの差が激しくて。でも常に、詞がはっきり聞こえるのが凄かった。調子の悪いときでも、歌詞だけはしっかり聞こえる。ギターは6弦しか弾いてなかったりしたけど(笑)。ファンはそれを見て、〈高田渡はもはや伴奏すら必要としない〉とか言うけど、言いすぎ(笑)。高校時分に観たライヴで、薬を飲んでたせいもあって、最後には人に抱えられるようにして気絶したことがあった。そのときでも口はパクパク動いてるんですよ。見ててやるせない気持ちになりつつも、やっぱこの人は〈詩〉を伝えたいんだなと思った。でも共演のときにやられたら、たまったもんじゃない(笑)。いっしょのライヴはいつも冷や汗かきまくりだった(笑)」。

 近年のボブ・ディランの作品を聴いて、「ディランはいいヤツだ」と何十年かぶりに言い出したとか、渡さんのCD棚にラテン・プレイボーイズがあって、「これ、かっこいいよ」って言ってたこととか、YMOの3人がひさびさに集まったことに強い関心を示していたこととか、オモシロ話が次々出てくる。ここに全部書ききれないのが惜しい。とにかく高田渡はユニークな音楽家であった。何よりも、そのことを伝えたいと高田漣は言う。彼のその思いは今回リリースされる2人のライヴを記録したアルバム『27/03/03』にはっきりと表れている。

「ドライな仕上がりをめざしたんですよ。伝説化されるのがイヤでね。彼は、ただ歌を作って歌を歌った、と。願わくば、若い世代にその歌が聴き継がれていけばいいな、と。このライヴのときの親父は調子が良くて、MCでの話が実に良く出来てるんですよ。聴きはじめたら、途中で切れない。音楽配信に不向きな作品といえる(笑)」。

 秀逸な話を聞かせる渡さんの傍で、漣くんの笑い声がする。その舞台に浮かぶ2人の距離感、これがまた胸をじ~んとさせるのだが、そこを抜きにしても、じ~んとくる良い演奏が詰まった素晴らしいライヴ・アルバムに仕上がっている。愛聴盤がまたひとつ誕生した。

PROFILE

高田 漣

  73年、高田渡の長男として生まれる。ペダル・スティールをはじめとしたマルチなミュージシャンとして頭角を現し、ハナレグミ、Polaris、アン・サリーなど、さまざまなミュージシャンの作品に参加、ソロとしても2002年にアルバム『LULLLABY』、『WONDERFUL WORLD』を、2004年に『RT』(nowgomix)をリリース。2006年には〈boUNIT vol.3〉にも出演が決定した新バンド=Hands of Creationを結成、6月21日にはアルバム『Hands of Cr-eation』をリリース予定。

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