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CHAPTER2 LET'S SPEND THE NIGHT TOGETHER

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2006年04月13日 12:00

更新: 2006年04月13日 20:08

ソース: 『bounce』 274号(2006/3/25)

文/安田 謙一

時代の空気に呑まれながら、流されるままに肥大化していく石ころたち


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  〈ビルは278人、ブライアンは130人、ミックはおよそ30人、キースが6人で、チャーリーはなんとゼロだった〉──これは65年11月に行われた全米ツアー中に振り返ってみた、〈グループ結成から65年までの2年間にモノにしたオンナの数(ビル・ワイマン著「ストーン・アローン ローリング・ストーンズの真実」:ソニー出版より)。

 66年にリリースされた『Aftermath』は収録された11曲すべてが、ミック&キース・コンビのオリジナル曲で構成された初めてのアルバムだ(UKチャートでは1位、USチャートでも2位を記録)。闇雲な焦燥感で煽り立てる〈黒くぬれ!〉(山口百恵の“ひと夏の経験”がこれを下敷きにしていると発見したときの興奮たるや!)、フォー・トップスのベースラインを引用したマリンバのリフも印象的な“Under My Thumb”といった粒揃いの楽曲の数々に、最後は11分以上の“Going Home”で締めるふてぶてしさ! ジャック・ニッチェ、アンドリュー・ルーグ・オールダム、もちろんブライアンによる多彩な楽器演奏も表現の幅を広げている。マリアンヌ・フェイスフルの〈涙あふれて〉に始まった、ミック&キースのソングライティング・コンビの成長は、バンドの進歩の象徴であったことは間違いないが、同時に印税という形で、富みの分配の不公平を生み出すこととなり、皮肉にも結成時のバンマス的存在であったブライアンの〈居場所〉を、じわじわと脅かすものとなっていった。

〈19回目の神経衰弱〉で歌われる〈物質的な豊かさに溺れ、自分の本当の姿を見失っていくデビュタント(=社交界の新人)に対する非難〉は、まるで、この時代の彼らそのものに投げかけられているかのようだ。〈黒くぬれ!〉や〈夜をぶっ飛ばせ〉(B面は“Ruby Tuesday”)、“Have You Seen Your Mother, Baby, Standing In The Shadow?”と一枚ごとに、センセーショナルな話題を巻き起こす素晴らしいシングル・ヒットを放ちつつも、どこかぎくしゃくしたバンド事情の不安定な部分が、名盤『Aftermath』に続くアルバムには反映されている。いまだティーンエイジ・アイドルとしての嬌声を誇張したライヴ盤『Got Live If You Want It!』に続いて67年にリリースされた『Between The Buttons』は、キンクスにも通じる英国趣味を打ち出した好盤だが、お次の『Flowers』は中途半端なベスト盤的選曲で、ジャケットも無理矢理時代に対応したデザインだ。反物質主義=精神世界に根差したUS西海岸を中心としたフラワー=ヒッピー・ムーヴメントと、スウィンギング・ロンドンのセレブリティーとしての生活を享楽するストーンズとは、実際にはかなりの隔たりがあった。

 さらに、ライヴァルであったビートルズがアルバム『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』をその進化の象徴としていることと対比すれば、まだレコード会社の力に屈している〈弱さ〉を感じずにはいられない。そして、67年のキースとミックの麻薬不法所持による有罪判決により、バンドの実力を示す場所であったライヴ活動も中断せざるを得なくなったことで、バンドはリセット・ボタンを押さざるを得ない状態に追い込まれる。

 そんな窮地にエールを送ってくれたファンへの返答が、ジョン・レノンとポール・マッカートニーもコーラスで参加したシングル“We Love You”。さらに、ザ・フーも応援の意を込めて、“The Last Time”のカヴァーをリリースした。そして、デビューから彼らと活動を共にしてきたマネージャー兼プロデューサーのアンドリューと決別し、自身のプロデュースでリリースした初のアルバム『Their Satanic Majesties Request』をリリースする。今作にはこの時代の彼らの迷走を反映しつつも、ここでしか聴けない抗し難い魅力がある。悪魔についての言及も、よく非難の対象となった男尊女卑的な歌詞世界同様、黒人音楽の伝統ともいえるだろう。

 誤解や偏見をも武器として、音楽以外でのスキャンダルなど外的要因、さらに沈黙まで、すべての偶然を必然に転じて、なすがままに〈怪物〉となっていった──ストーンズにとってまさにそんな時代だった。

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