Sly & The Family Stone(2)
自由と共同体意識
オータムがワーナーに身売りされると、スライはロードストーンからシングルをリリースする。スライ&ザ・ファミリー・ストーン名義での初シングルは“I Ain't Got Nobody /I Can't Turn You Loose”(66年)。後者はもちろんオーティス・レディングのカヴァーで、前者もスタックスっぽいが、ローリング・ストーンズを意識しているのも間違いないところだ。スライはラジオDJの仕事も続けていたが、そこではトイレ用品エクス・ラックスのCMに続けてトイレの水が流れる効果音を入れたり、ピアノの生演奏でリスナーの誕生日を祝ったり、いわゆる〈shock jock〉の手法でどんちゃんと番組を盛り上げていた。実際に67年3月に放送されたスライの番組を聴くと、ものすごいスピードで場面が展開していくのがよくわかる。文字どおりサイケデリック。さすがサンフランシスコだ。もちろん、ソウルも流せばロックも取り上げる。と同時に、聴き手を鷲掴みにするキャッチーなフレーズやスローガンを瞬間的に生み出そうと努力している。とにかく、頭の回転が早い。スライはラジオDJとして開発した手法も自分の音楽のなかへ貪欲に採り入れていくのだった。
スライがエピックと契約する際、当時CBSの責任者だったクライヴ・デイヴィスは、彼のグリッターな個性が白人層に受け入れられるかどうか、自信を持てなかったと述べている。それに対してスライは、ハッキリとしたヴィジョンを持っているとデイヴィスに伝えた。のちにデイヴィスはスライの展望を見くびっていたと認めている。それまでの活動をとおして、スライは時代の流れを確信していた。
ファミリー・ストーンの名のもとに集まったのは、まず弟のフレディ(ギター)と妹のローズ(ヴォーカル)。ストナーズで活動を共にしていた女性トランペッターのシンシア・ロビンソン。すでにTV番組「シンディグ」でプレイするなどのキャリアを持っていたジェリー・マルティーニ(サックスほか)。ジェリーの従兄弟でドラマーのグレッグ・エリコ。そしてチョッパー・ベースを生み出したラリー・グラハムだ。彼は1拍目のバスドラムの代わりに弦を叩くように親指を使い、スネアのアフター・ビートを真似るように人差し指で引っ掛けてベースを弾いた。ひとりで歌伴をする必要に迫られて、ファミリー・ストーンに参加する以前からグラハムはそんな手法を使うようになっていた。
そんなツワモノたちを引き連れて、スライはデビュー作『A Whole New Thing』でタイトルからして大風呂敷を広げてみせた。しかし、不発。それは本人も織り込み済みのことだっただろう。ラジオでかけにくい音楽であることをスライ以上に知っている人間はいまい。ギンギラな衣装やエキサイティングな演奏を繰り広げることも、ライヴを重ね、徐々に知られていくものだろう。そこでセカンド『Dance To The Music』で彼は若干の軌道修正を試みる。ラジオで鍛えたキャッチーなフレーズ、スローガン作りがそれだ。象徴的なタイトル・ナンバーはR&Bチャート9位/全米8位、イギリスでは7位まで昇る大ヒットになった。その単純明快なメッセージは、〈サマー・オヴ・ラヴ〉の昂揚感と、歌と踊りが司る共同体意識を見事に伝えてくる。ジェイムズ・ブラウンはバック・バンドに軍隊のような規律を求め、演奏をミスると罰金を課したとも言われている。それに対してスライは、メンバーの力量を信じ、それこそ家族と接するがごとく自由に演奏させたとラリー・グラハムは回想している。逆に言えばそれは、スライも自由を求め、誰からも束縛されないと宣言しているようなものだ。68年5月にNYで録音された『Life』には、めまぐるしく展開する曲が数多く収録されている。それは音楽理論を学んだスライの多才さを示しているようでもあり、束縛から逃れようとする姿勢を映し出しているようにも見える。
68年暮れには“Everyday People”がシングルでリリースされ、R&Bと全米の両チャートで首位となる大ヒットを記録。そして69年、いよいよ4枚目のアルバム『Stand!』が発表されると彼ら初のゴールド・ディスクに輝いた。何しろ名曲揃いだ。ゴスペルをロック感覚で再構築した“Stand!”と“I Want To Take You Higher”の間に置かれた“Don't Call Me Nigger, Whitey”では、ギターがのたうつようなグルーヴを生み出し、人種の間に壁はないとする“Everyday People”の主張をまたひとつ違った形で表現している。
さらに70年1月にはシングルで“Thank You(Falettinme Be Mice Elf Again)/Everybody Is A Star”がリリースされた。“Thank You(Falettinme Be Mice Elf Agin)”はもちろん、ラリー・グラハムのチョッパー・ベースが唸るファンクの金字塔である。“Everybody Is A Star”もスライの思想を端的に示してみせた傑作だ。スライの絶頂期は当分の間続く──そんなふうに誰もが確信していた。
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