Sly & The Family Stone

　　耐震強度を誇るように屹立させた金髪のモヒカンとギンギラの衣装。30年以上前と同じようにサングラスもキマっている。先日の第48回グラミー授賞式におけるスライ&ザ・ファミリー・ストーンへのトリビュート・ライヴのなかで、スライ・ストーン本人がついに姿を現わした。キーボードに向かい、雄叫びをあげ、パフォーマンス終了後に感動的なスピーチでも……と思いきや、演奏の途中でスタスタ帰ってしまった。それもなんだかスライらしい。スライ・イズ・バック!　ようやくこの日がやってきた。

早くから覗かせた才気

　もう20年近く、ファンク好きをやきもきさせてきたスライ・ストーンことシルヴェスター・ステュアートは、テキサス州ダラス郊外に位置するデントンで1941年3月15日に生まれている（生年に関して43年か44年と書かれることも多いが、洋書〈フォー・ザ・レコード・シリーズ〉のスライ本でジョエル・セルヴィンが記している41年という説がもっとも信頼性が高そうだ）。いずれにしても、ジェイムズ・ブラウンよりは10歳ほど若く、ジョージ・クリントンやジミ・ヘンドリックス、ジョン・レノンらと同世代ぐらい。父親のKCは敬虔なキリスト教徒で、酒も煙草もやらず、四文字言葉などもってのほかという生真面目な人物だった。

　そんな父KCと母親のアルファは、スライが幼いころにサンフランシスコ（以下SF）やオークランドにほど近いカリフォルニア州ヴァレホに居を移すことを決めた。スライの弟フレディ（46年生）と妹のローズ（45年生）、そしてヴァエッタ（50年）はこのヴァレホで生まれている。白人ながらリズム&ブルースの世界に大きな足跡を残したジョニー・オーティスが、同地の出身者として知られる。父親のKCは洗濯板でリズムを刻み、フィドルの演奏も得意としていたという。どうやらカントリー&ウェスタンも好んでいたようだ。そして母アルファはゴスペル・クワイアを監督し、スライら兄妹はステュアート・フォーを結成、ゴスペルを歌いながら各地を巡っていた。ステュアート・フォーは、52年に初録音を残している。スライは母親に買ってもらった中古のギターを手始めに、ドラムスやベースも操るようになっていた。

　59年から61年にかけて、彼はステュアート・ブラザーズやジョー・ピアザ&ザ・コンティネンタルズ、ヴィスケインズのメンバーとして、さらにソロ名義で、何枚かのシングルもリリースしている。ヴィスケインズは白人男女2人ずつとスライ、それにフィリピン系の男子からなる6人組で、当時では異色の構成と言える（70年の時点でヴァレホの人口は白人約78％、黒人17％、ヒスパニックとアジア系がそれぞれ4％ほど）。そしてスライはメンバーの女の子のひとりと恋仲になっていた。ほぼ同時期に彼は地元のジュニア・カレッジに進学。そこで音楽理論を専攻し、トランペットなどもマスターしている。やがてラジオ局KEWBのDJだったクリス・ボーデンが主宰する放送学校にも進み、64年秋にそこを卒業するとKSOL局に雇われ、月曜から土曜日までDJとして夜の番組で喋るようになっていた。

　64年、そんなスライの音楽的な才能に惚れ込んだのが、インディー・レーベルのオータムを設立したトム・ドナヒューだ。すでにヴェテランのラジオDJだったドナヒューはSFの音楽シーンを革新していくひとりで、66年に行なわれたビートルズ最終公演を仕切ったのも彼だ。スライはオータムの専属プロデューサー／ソングライターとしてボビー・フリーマンの“C'mon And Swim”（64年、R&Bチャート5位）、ロック・バンドのボー・ブラメルズのデビュー・ヒット“Laugh, Laugh”（65年、全米15位）などを手掛け、その才能に磨きをかけていく。グレイス・スリック（後にジェファーソン・エアプレイン）が在籍していたグレイト・ソサエティのレコーディングにも関わり、曲によってスライはすべての楽器を弾いていたとスリックは言う。また、この頃にスライは、ビリー・プレストンとの交流も深めている。プレストンの録音にも参加し、逆にプレストンはスライのラジオ番組によく遊びに来て、番組が終わるとふたりは夜の街に飛び出していった。

一方、スライはオータム・レーベルに自身の録音も残している。スライ・ステュアート名義の“I Just Learned How To Swim”（64年）、単に〈スライ〉名義による“Bettermilk”“Temptation Walk”（65年）などだ。この後、彼はシンシア・ロビンソンをメンバーに含むストナーズを結成。そのストナーズと、弟によるフレディ&ザ・ストーン・ソウルズが母体になり、ファミリー・ストーンは誕生することになる。66年のことだ。