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日本のヒップホップっていまどうなってるの? 細分化が進み、全体像が捉えにくいシーンの現状を掴むべく緊急対談を実施!

――日本のヒップホップ、というかラップ作品って、層は厚くなってるんだけど、なかなかコアなリスナー以外にまで知られている人がまだまだ少ないんじゃないか、ということなんですが。

「おもしろいモノが出てきやすいのはインディーだと思いますね。あと、単に自分が東京に住んでるから東京の状況が見やすくなるわけで、全国の土地ごとにおもしろくなってる状況はあると思う。だから、東京から見えやすいという意味ではMSCやSMRYTRPSの動きが注目だろうし、横浜でいったら……例えばサイプレス上野とロベルト吉野とか」

――そもそも一括りにはしづらい状況ってことですね。で、去年から今年にかけて、別枠で紹介してるCOMA-CHIもそうですが、MCバトルで実績を上げた人が目立つ気がしてて。Da.Me.Recordsのリリースが多いから、そう見えるっていうのもあるんだろうけど。

一ノ木「そうですね、バトルに関して言えば、MSC~Libra主宰のもあれば、ダースレイダーのもあったり、いろんなところの動きが際立ってきていたとは思います」

――昔だとデカい大会って〈BBOY PARK〉のバトルぐらいでしたよね?

「専門誌レヴェルじゃない場でも紹介されるものっていうことですけどね」

「漢くんにしてもカルデラビスタにしても、バトルの活動を作品に反映させてるから、その印象もあるのかも。晋平太だってグループとソロでリリースしてるし」

――なるほど。あと、僕は全体の様子がわからないんですが、2005年ということだとSTERUSSがデカかったんですか?

「“マイク中毒 pt.2”はYOU THE ROCK★のやってたラジオ番組〈ヒップホップ・ナイトフライト〉~〈さんぴんCAMP〉世代の日本語ラップへの思い入れを形にしたものだし、定評あるライヴにもそのメンタリティーは色濃いから、〈さんピン〉から10年っていう区切りの気運を象徴する存在だったとは言えるかもしれませんね。アルバム自体はそれこそクラシカルというかオーソドックスな音楽性なんで、評価は人それぞれだろうけど」

「逆にSMRYTRPSとかはそういうのが見えにくいですよね」

「まあ、それこそ2000年代以降出てきた人たちは多かれ少なかれ90年代半ば以降の日本語ラップに何かしらの影響を受けてきた人たちがほとんどだと思うんだけど」

――それでも、そういうムードが去年は特に顕著だったってことですか?

「どうだろう。俺はそんなに感じないけど。一巡して〈さんピン〉的なムーヴメントを求めている人は多いと思う」

「シーンの同志を鼓舞するようなZEEBRAの“Street Dream”があって、それはこの2~3月にビッグ・アーティストから新人まで一斉に作品を出すっていう動きとも何となくリンクはしてますよね」

「昔に比べて、シーンに対するアーティスト個々の温度差みたいのがあって、ある世代以上のアーティストがそれを感じはじめたことで、原点回帰みたいな方向に向かってるんだろうけど。その下の世代でも、DABOが新作でコンシャスな部分を見せてたりはしましたよね」

――なるほど。ただ、昔と違って温度差とかがあるのは当然ですけどね。アーティストの人数も増えたし、音の傾向も受容のされ方もいろいろだし。だからこそひとつの〈シーン〉のようには見えにくいというか。

「そう、例えば達磨様が好き、RAMB CAMPが良いなと思ったとして、地方が本当にどういう動きになってるか、そこにいないとわからないし(笑)。その先に何を聴けばいいのかっていうのも見えにくい。細分化されたなかで、細分化されたファンに向けた動きは確実にあるんだろうけど」

――真ん中みたいなのが見えにくいってことですよね。そうなると、リスナーも全部は追えないから局所的になっていくっていうのもあるんでしょうが。

「俺は“E”qualが、音楽的にもいちばん華があって、好き嫌いなくド真ん中として認められるかなあと思ってるんだけど」

――名古屋はリリースが多いから楽しいですよね。あと、動きが積極的なのは妄走族ですね。去年は個々のソロだけだったけど、般若はJ-Popチャート的な部分でも健闘してますし。

「シーンとJ-Popの関係でいうと、例えばKREVAのように自分からJ-Popに出て、でもオレ流ってのを通してる人もいて。今度はEVISBEATSもそこに噛んできて、境界線を破ろうとしてるわけですよね? そういう動きは興味深いと思う」

――レゲエみたいに邦楽と洋楽が同時に聴かれるともっとおもしろいんですけどね。

「10年前も同じこと言ってたと思うんだけど(笑)、それこそBACH LOGICなんか本当に良いトラックを作ってるし、名古屋の人たちもそうだし、そういうレヴェルでやれる人が必要な時じゃないかなあ」

――DS455なんかはそういう意味では別格だし、やっぱり惹かれますけどね。まあ、一方では凄くドメスティックな行き方もあってほしいし。恐い人もいてほしいし(笑)。志向も音も足並みもバラバラなほうがおもしろいですよ。

「降神のように、ヒップホップ・リスナーじゃない人にこそ支持されるような人たちもいますしね」

「いわゆる〈バブル〉を通過して、どんなスタイルであるにせよ、きちんと音楽を作らなきゃいけないっていう、ある意味健全な状況じゃないですか。それこそ歌詞で言ってることが重要になってきたりとか。それは確実にあると思います」

▼文中に登場したアーティストの作品を紹介


サイプレス上野とロベルト吉野の2004年作『ヨコハマジョーカーEP』(ZZ PRODUCTION)

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2006年03月16日 11:00

更新: 2006年03月16日 21:00

ソース: 『bounce』 273号(2006/2/25)

文/対談/一ノ木 裕之、森 杜男 進行・構成/出嶌 孝次

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