Introduction With OMAR
帰ってきたUKソウルのオリジネイター
「まったくの偶然だよ」──90年代初頭のUKソウル・シーンを賑わせたアーティストたちが相次いで新作をリリースしている状況を前に、5年ぶりの新作『Sing(If You Want It)』を発表したオマーはこう答えた。確かに偶然なのだろう。けれど、そのオマーがトーキング・ラウドから登場して今年で15年。現在では当時のアシッド・ジャズに影響を受けた新世代も増え、UKソウルはかつてのUKソウルらしさを取り戻しながら前進している。UKで起こったさまざまなムーヴメントと対峙しながら成熟したUKソウル。それが今回の特集のテーマである。そして、そのトップバッターとして登場するのがオマーであることに、もちろん異論はないはずだ。
インディペンデントのメンタリティー
「以前のUKではUSのR&Bやヒップホップを求めがちだったけど、ジャングル、ガラージ、グライム……最近はそういう新しいムーヴメントが自分たちの国で起こって、リスナーもそれを聴くようになった。こういう状況はメンタリティーとして、とても健全だよね」。
そう語るオマー自身、当初はUS産のソウル/R&Bに傾倒して音楽を始めたわけだが、現在では「まったく違う考えを持っている」と言う。トーキング・ラウド、RCA~BMG、ナイーヴと3つのレーベルを渡り歩き、今回の新作は自主レーベルからのリリース。どうやらオマーは、いろいろな意味で自身をリセットしたかったようだ。
「ひとつの会社にコントロールされると問題が起こることが多くて。ナイーヴからの『Best By Far』なんかファンの数よりセールスが少ないっていう状況でね(苦笑)。だったら自分でやればいいと思ったんだ」。
そうして出来上がった新作は、どこかトーキング・ラウドからのデビュー時にも似た自由な気分と、いまの時代の尖鋭感を同時に反映したような傑作となった。
「トーキング・ラウドからのデビュー作『There's Nothin' Like This』も最初は自主レーベル(オマーの父親が主宰したコンゴ・ダンス)で作っていたからインディペンデントのメンタリティーがあった。だから今回も状況としては同じなんだ。サウンド面ではベースとドラムをハードにして、過去のアルバムよりクラブ向けになった。これまではクラブで自分の曲をかけてもらえることが少なくて不満を感じていたから、今回はよりエッジの効いたサウンドをめざしたんだ」。
それでもオールド・スクールの雰囲気満点なのがオマーらしい。
「ああ、“It's So”ならフェラ・クティ、“Your Mess”ならアース・ウィンド&ファイア、“Gimme Sum”ならハービー・ハンコックとか、70年代のソウルとかファンク・マスターたちに影響されたのが今回のアルバムだろうね。だからといってオールド・スクールそのままではなくて、ちょっとしたヒネリを加えているよ」。
ついでに言うと、“Be A Man”はオマーが敬愛するスティーヴィ・ワンダーの“Don't You Worry About A Thing”によく似ている。そして何と“Feeling You”ではスティーヴィー本人と初共演。ついに!という感じだ。
「スティーヴィーと曲を完成させたのは今回が初めてで、2000年にレコーディングした曲なんだ。最初に会ったのは92年で、その時に僕のために曲を作ると言ってくれたんだけど、曲を作りながらスティーヴィー、居眠りしちゃってね(笑)。その後は時間的な問題で実現しなかったんだけど、2000年になって突然電話がかかってきた。で、彼が作ってくれた曲を聴いたんだけど、それは僕が求めているような70年代のスティーヴィーのサウンドじゃなかった。そこで僕はスティーヴィーに〈もっと古いサウンドがいい〉と告げて、友人のスタジオでいっしょにジャム・セッションをしたんだ、朝の6時までね。そしたらその日の夜、曲が出来たとスティーヴィーから連絡があった。それを録音したのが今回の“Feeling You”なんだよね」。
▼『Sing It(If You Want It)』に参加したアーティストの作品を一部紹介。
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