Trans Electro Express!!(2)
エレクトロ含有量高め!! なダンス・ミュージックの数々
>>MIAMI BASS
マイアミでクラブ〈Pac Jam〉を運営していたルークが、LAから招いたラップ・グループの2ライヴ・クルーを気に入ってみずから加入したところからマイアミ・ベースは始まっている。……というか明確な区切りがあるわけではないが、2ライヴ・クルーでDJを務めていたMrミックス、さらにはダイナミックスIIやビート・ドミネイターといったマイアミ~オーランドのクリエイターたちが、エレクトロ・ヒップホップをフリーキーかつシンプルなものへと発展させていった結果生まれたモノだと考えていいだろう。
その後、ヒップホップの主流がエレクトロからブレイクビーツへと移っていったことで、マイアミ・ベースは独自の美意識を構築していくことになるが、音楽ファンやメディアには黙殺されようと、ハウス・パーティーやストリップ・クラブ、ウーファー愛好家たちの間で底抜けに脳天気で重たいサウンドは愛され続け、90年代後半にはメインストリームの音楽にも強い影響を及ぼしていることが証明されている。(出嶌孝次)
>>GHETTO-TECH
90年代中盤、デトロイトのブロック・パーティー・シーンより登場した高速ベース・ミュージックのこと。特定の楽曲の指向性を発展させたものというよりは、地元のターンテーブリストたちがゲットー・ハウス(DJファンク、ディーオン他のシカゴ・ハウス音源)、エレクトロ、そしてマイアミ・ベースといった低音域の強い音源を高速テンポ(BPMでいえば140~160あたり)でミックスしたことにより生じてきた〈スタイル〉だと捉えたほうが正しそう。代表的なDJはDJゴッドファーザーやDJアサルトら、プロデューサーだとエレクトロファンク軍団のMrディあたりの名が挙がる。パーティー自体の乱痴気ぶりも凄まじいようで、ゴッドファーザー周辺のシーンを取材した『The Godfather Chronicles : The Ghetto Tech Sound Of Detroit』のDVDパートでは、女性ダンサーがお尻をプリプリやってる現場映像も確認可能。日本ではDJ FAMILYのプレイなどでそのブーティー・ミックスを体感できます!!!(RAW原田)
>>B-MORE BREAKS
M.I.A.の登場によって(やや)注目を浴びたバイリ・ファンキですが、そこにいち早く喰い付いていた異能リスナーの間で〈ポスト・バイリ〉として秘かに注目を浴びているのが〈B-more〉ことボルティモア・ブレイクス(ボルティモア・クラブ・ミュージック)である。
ボルティモアといえば、映画界の変態大統領=ジョン・ウォーターズを輩出したヤバい地だけに……というテキトーな予感はある意味的中! こちらもバイリ・ファンキ以上に音の入手が困難だが、ザックリ言えば初期シカゴ・ハウスのビートをかなり速めのブレイクビーツに置き換えた、やたらに躁状態なシロモノ。こちらも非常に安直な大ネタをドッサリ搭載しているのだが、それがイリーガルさや反骨精神の表明ではなく、〈盛り上がるから〉という無邪気な理由からきた行為なのは言うまでもない。情報不足のためその全貌はまだまだ謎ながら、こちらも偏食大将ディプロがグウェン・ステファニー“Hollaback Girl”のリミックスをボルティモア味で一丁! なお、正規盤では唯一に近い(?)ボルティモア・コンピ『Bmore Gutter Music』でミックスを担当しているのは、ディプロの相棒=ロウ・バジェットです。(石田靖博)
>>BAILE FUNK
ブラジリアン・ミュージックはボッサでサウダージな……という幸福な思い込みを百万光年彼方へブッ飛ばすバイリ・ファンキ! またの名をファンキ・カリオカ、ザックリ言えば安っぽ~い打ち込みビートに安直なネタ使い(WINDOWSの立ち上げ音とか某ピカチュウとか)を頭悪そうな感じでまとめた、ブラジル版ポンチャック(懐!)かパラパラか、といったドブ板ダンス・ミュージック。あのM.I.A.がバイリ・ファンキを導入して一般的(か?)に注目を浴びたのだが、その立役者こそ当時熱愛中だったディプロである(M.I.A.のリミックスのみのブートDJミックスはバイリ・ファンキ全開!)。キワモノ・ダンス音楽偏愛家である彼はバイリ・ファンキのみのDJミックス(ブートですが)も出すほど。ただ、現地ではCD-RやMP3中心の流通で、音自体がまだまだ入手困難。カタギはこの特集内で紹介した数点のコンピや、世界一の奇集家=露骨KITの超絶DJミックス(CD-Rですが)ぐらいでしか接する機会はないのだ。(石田靖博)
>>CRUNK
もともとは〈大暴れ〉とか〈尋常じゃない〉とかそういう意味らしく、アトランタ産のブーティーなバウンス・ビートをさすものだったはずの〈クランク〉だが、リル・ジョンが大々的に用いはじめてからは、いつの間にか彼が作り出すビートの総称になったようだ。彼の音楽性のベースになっているのはマイアミ・ベースだが、初期クランクはアトランタ産ベース・トラックが徐々にテンポを落としていき、ヘヴィーでシンプルになっていったところから生まれてきた、いわゆる〈スロウ・ベース〉であり、これは多くのヒップホップ曲に流用されたものだ。一方で一時代を築いた〈cRunk&B〉サウンドは、よりTR-808の響きを前面に出したクラップ・ビートに下世話なシンセ・リフをあしらった、つまりはエレクトロの原型により歩み寄ったサウンドである。なので、アッシャー“Yeah!”もシアラ“Goodies”もニヴェア“Okay”もマリオ“Boom”もエイメリー“Touch”も(凄い曲名ばっか)すべてエレクトロだということです。(出嶌孝次)
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