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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2005年12月08日 18:00

更新: 2005年12月08日 21:10

ソース: 『bounce』 271号(2005/11/25)

文/轟 ひろみ

天下獲りへとゲーム・スタート!!


「〈What It Do〉っていうのはオレの周りでの挨拶の言葉なんだ。NYだったら〈Yo, What's Up〉とか言うところを、オレたちはそう言うのさ。ローカル色があっていいだろ?」。

 先行シングルの“What It Do”についてそう語るリル・フリップ。そんな言葉からも、メジャーになろうが地元への誇りと愛情を失わない彼のスタンスが感じられないだろうか。ともあれ、マニー・フレッシュをプロデュースに迎えた同曲を受け、待望のニュー・アルバム『I Need Mine』がリリース間近だ。2005年を通じてヒットを送り出してきたヒューストンのヒップホップ・シーンではあるが、早くから全国区へ飛び出して成果を収めてきたフリップの新作はまさに待望の一言に尽きる。

 で、まずは全米チャート2位という大ポップ・ヒットの“Sunshine”を叩き出すなど大成功を収めた前作『U Gotta Feel Me』も含めた過去作にそれぞれキャッチフレーズをつけてもらおう。

「そうだな……『The Leprechaun』は〈ハングリーでフッドな時代〉のアルバム、『Undaground Legend』は〈大きく育った〉って感じかな。『U Gotta Feel Me』はそれまでの〈集大成〉さ。R&B系のトラックをやったり、ハードな“Game Over”もやったりして、自分でも作風に幅ができたと思うし、オレをひと回り大きくしたアルバムだよ」。

 なるほど。それ以外にコンピやミックステープも含めると、メジャー・デビュー以降も毎年アルバムをリリースしていることになる。その旺盛な創作意欲はどこから湧いてくるのだろう?

「オレがこの世界に入ったきっかけはミックステープだった。だから、そういうカルチャーに背を向けるなんてできないよ。フリースタイルも常にやってるし、そもそも創作意欲がなくなるなんて考えられないな。オレ、単に音楽をやるのが好きなんだ。スタジオの壁に飾ってあるプラチナ・ディスクとか、これまでやってきたことが形になっているのを見るとヤル気が湧いてくるんだよ」。

 あまりのマジメぶりに惚れ直してしまうが……そうは言っても近年は客演などの露出を減らしている印象もあったのだが。あえて出番を抑えていたということ?

「そうそう。カネが稼げるからって誰とでもやるっていうのはもうイヤなんだ。自分が納得してやりたい相手とだけやるようにしてるね。あと、忙しかったのもあるな。新作の制作以外にも映画〈Pimpin' Ain't Easy〉を撮影したり、“What It Do”のプロモ・クリップを監督したりね。あとはオレのクルーであるクローヴァーG'sのアルバムを準備したり、オレのリカーを売り出したり。オレがデザインした時計も服のブランドも発売予定だし、最近は自分でもビーツを作ってるし……(以下略)」。

 そんな多忙の合間を縫って作り上げた新作『I Need Mine』は期待に500%応える傑作となっている。ホントにいつ作ったんだ!?と思うような最高の出来だが……。

「携帯に録音したりはするけど、ラップを思いついたら、紙や鉛筆がなくても記憶しておくよ。だから〈フリースタイル・キング〉なんじゃん? 書くものなんか必要ないぜ。オレからしたらフリースタイルもスタジオでのレコーディングも同じことだよ。それにオレの場合、毎回〈アルバムを作ろう〉とか〈これでおしまい〉っていうのはないわけ。ずっと曲を作り続けてるから区切りはないんだ。今回も作って8か月くらい経った曲があるよ」。

 いちいち格好良すぎる。では、今回はどういった部分にチャレンジしているのだろう?

「今回はラップのスタイルを変えてみてる曲があるんだ。いつもより早いテンポでフロウしてる曲もあるぜ。それと、ギャル向けの曲をやることもテーマだった。“I Just Wanna Tell U”とかネイト・ドッグをフィーチャーした“Take You There”の2曲を収録できたよ。もちろんストリート用の曲も必要だし……まとめると、ヴァラエティーに富んでいて、かつストリートなアルバムということを念頭において作ったってわけさ」。

 ちなみにプロデューサーとしてはサラーム・レミやシンフォニー、スコット・ストーチらが参加。ゲストにはライフ・ジェニングス、MJG、スリー6マフィア、リル・キキ、Z・ロウなども登場する。そして目立つのはスカッド・アップだ。

「オレは自分の経験を活かしてもっと新しいアーティストを育成したいと思っててね。彼らはニューオーリンズ──ハリケーン犠牲者たちの冥福を祈ってる──の連中なんだ。彼らもいろいろ失って、いまはヒューストンにいるんだけど、クローヴァーG'sに続いて、スカッド・アップの作品も出したいね」。

 そのように多彩なトピックがありつつも、今回の作品は、ファンが聴きたいヒューストン・フレイヴァーと全国区向けの親しみやすさが過去最高に上手くブレンドされているように感じるのだけど。

「そう思われると嬉しいな。オレ自身も〈ただのヒューストン・ラッパー〉と言われちゃうと抵抗を感じるんだ。もちろん、スタイルでヒューストン出身ってのはわかると思うんだけど、オレとしてはライムの内容とか重要視してるし、いい音楽をやれば誰からも受け入れられるって信じてる。世界中の人に聴いてほしいんだ」。

 本当に最後まで格好良すぎるな、この人は。ちなみに『I Need Mine』とは「そろそろリスペクトや名声のすべてをオレが頂戴する時期だろ?っていう意味さ」とのこと。この内容をもってすれば、それもたやすいことなんじゃないだろうか?
▼『I Need Mine』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

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