Luther Vandross
密かにクリスマス好きのぼくが、毎年この時期になると引っ張り出すアルバムがある。『Funky Christmas』と実にストレートな看板を掲げたそのコンピレーション盤のジャケットには、インプレッションズやマージー・ジョセフ、それになぜかひとり真面目顔のルー・ドナルドソンらに囲まれる形で、サンタ帽をかぶって満面の笑みを湛えるルーサー・ヴァンドロスがピアノを前にした一等席にどんと陣取っている。リリースは76年。当時組んでいた〈ルーサー〉という男女混声グループの一員として(もちろん主役は彼)2曲を担当する彼のヴォーカルには、早くも完成の域に達しようとしているあのルーサー節が確認できる。
ルーサーは、ソウルフルと聴いて思い浮かべがちな豪快さが取り柄のシンガーではない。むしろずっと繊細に、みずからの喉を徹底的にコントロールして、その声色を、そのタイミングを、そのノートの長さにこだわる。ひっくり返るか返らないかというギリギリのところで声を張ってみせる彼の歌い回しがチャーミングに映るのも、極めて人懐っこいのにイナタさの感じられない都会的なスタイルも、そうした熟練工の如きスキルがあってこそのものなのだ。
彼のヴォーカルには、ダイレクトにこれだと指摘できるほどの明確な影響源がない。一説によればゴスペルを歌ったことがないとされる履歴に起因しているのか、それともディオンヌ・ワーウィックやアレサ・フランクリン、ダイアナ・ロスといった女性シンガーの音楽を愛好していたという音楽的嗜好からなのか。いずれにせよ、ルーサーはいかにサム・クックをカヴァーしようが、スティーヴィー・ワンダーをカヴァーしようが、それら先人たちとは繋がっているようで繋がっていない孤高のシンガーである。
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