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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2005年11月10日 16:00

更新: 2005年11月10日 18:19

ソース: 『bounce』 270号(2005/10/25)

文/林 剛

俺にもジャズができる


  〈ジャジーなヒップホップ〉という言葉は時に陳腐に聞こえるけど、そう表現せずにはいられない、まさにジャズのエレメントを含んだヒップホップは実際に数多く存在する。〈俺らにもジャズができる〉と、かつてトライブ・コールド・クエストが“Jazz(We've Got)”で言い放ったように、特に90年代前半の東海岸ではジャズ・ネタを使うなどしたクールなヒップホップ曲がシーンを賑わせた。と、そうした〈あの頃〉のマインドを引き継ぎつつ現代の音としてアップデートさせていく……そんなトラックメイカー/MCのひとりがケヴ・ブラウンだ。

「影響を受けたのは、ピート・ロック、DJプレミア、ラージ・プロフェッサー、J・ディラ、DJスクラッチ、RZAとかさ。ヒップホップ以外ではクインシー・ジョーンズ、スティーヴィー・ワンダー、ウィリー・ミッチェル、ジェイムズ・ブラウン、デヴィッド・アクセルロッド……もちろん他にも大勢いるぜ」。

 すでにトラックメイカーとしてデ・ラ・ソウルやビズ・マーキーらの作品に関わっているケヴが作り出す音は、ビートはタイトでありつつもメロディアスな響きを持つ。そんな音色の特徴は、現在も住んでいるという出身地メリーランドの土地柄とも無関係ではないようだ。

「ここのヒップホップ・シーンはヴァラエティーに富んでいてとてもおもしろいよ。全国からいろんな人種が集まってくるしな。マーヴィン・ゲイやデューク・エリントンもDC出身だぜ。そんな背景も関係しているのかもな」。

 最初はラップから始め、しばらくしてビートを作るほうに興味を持ちはじめたというケヴ。現在はMPCでビートを作ることがメイン・ワークとなったが、「普通にデイリーな仕事をしながら音楽をやっていた」というケヴに転機が訪れたのは、マーリー・マールに出会ってからだった。

「“What Ruling Means”って曲をいっしょに作ったグラップ(・ラヴァ)、彼の兄貴のピート・ロックに誘われてマーリー・マールのラジオ・ショウに遊びに行って、そこで出会ったんだ。そしたら、その日に“What Ruling Means”をオンエアしてもらってさ。ちょうどその時、マーリーは〈The Beat Generation〉のアルバム『Re-Entry』を制作していて、収録のオファーをもらったんだ」。

 それと前後してケヴは同じく〈The Beat Generation〉のアルバムを制作していたジャジー・ジェフに見初められ、フィリーの音楽集団=タッチ・オブ・ジャズ(ATOJ)に入団。ジェフのアルバム『The Magnificent』にもケンウッドらと共にジャジーなトラックを提供した。

「俺はもうATOJを抜けたけどね。(ATOJは)バッド・ビジネスだったんだ。まったくお金がもらえなくてさ。でもATOJではエンジニアの基礎的なことを学んだ。それにたくさんの違ったタイプのアーティストたちとどうやっていっしょに仕事するか、とかね。けど俺の音はフィリー的と言いたくない。なぜってATOJに入る前から俺はこのスタイルを持っていたから。強いて言うなら〈ソウル的〉なサウンドだな」。

 昨年はジェイ・Zの『The Black Album』をリミックスした『The Brown Album』でも密かに話題となったケヴ。

「たまたま『The Black Album』のアカペラ素材をリリースより随分早く手に入れたんだ。それでやってやろうと決めた。ジェイ・ZはグレートなMCであるとともにビジネスマンとしてもリスペクトしてるぜ!」。

 こうした過程を経て今回アップ・アバヴからリリースされるのが正式なファースト・アルバムとなる『I Do What I Do』だ。アルバムは、例えば9thワンダー(リトル・ブラザー)やJ・ライヴがそうであるように、東海岸のヒップホップが最も輝いていた時代のハードコアなスタイルを頑ななまでに貫き通した、とでもいった印象を受ける。

「俺はただ自分の好きな音楽をやりたかっただけで、特に大きなコンセプトはないよ。ただいいレコードを作りたかっただけさ」。

 やりたいことをやる、と。つまりアルバム・タイトルに込めた意味もそういうことなのだろう。参加ゲストには、先述のグラップ・ラヴァをはじめ、リトル・ブラザーのフォンテ、オディッシー、ケン・スター、クリティカリー・アクレイムドのクオーターメイン、サイ・ヤングといったアンダーグラウンド・シーンの個性派MCらが名を連ねるが、うち多くはケヴの主宰するロウ・バジェット・クルーの仲間とのこと。また、“Hennessey Pt. 2”でエリック・ロバーソンと歌っているDC出身のウェイナ(ソロ作にケヴが関与)やクロンカイトといったシンガーも同じ仲間だそうで、これまでにドゥウェレやラヒーム・デヴォーンらの作品も手掛けてきたケヴだけに今後はR&B方面での活躍も期待されるところだ。そうした意味において、やはりソウルフルなヴァイブの復権に尽力しながらオーヴァーグラウンドで成功を収めているカニエ・ウェストのポストを狙えそうなケヴでもあるが……。

「もちろん俺もメジャーのレヴェルまで行きたいし、近いうちに必ずそうなるって確信してるよ。俺のプランは自分のスタイルでもっともっと成功することさ」。

 アンダーグラウンドの注目株、なんて呼べなくなるのも時間の問題だろう。

▼ケヴ・ブラウンがラップ/プロデュース/リミックスで関与した作品を紹介

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