Quintessence
午前5時には何かが起こる
クインシー・ジョーンズのアルバム・タイトルにもかつて用いられていた〈真髄〉という言葉をそのままバンド名に冠しているのが、このクインテセンスである。何かとキーワードになる〈北欧〉はフィンランドで、リーダーのアキ・ハーララ(ギター)を中心に結成された6人組だ。紅一点のエマ・サロコスキー(ヴォーカル)の歌声には適度な体温を感じさせる曖昧なクールネスが浮かび、そのバックを豊かに支えるのは、スタイリッシュであると同時に機能美にも富んだアンサンブルである。2000年に英ドラドからデビューした彼らは、紆余曲折の結果、多様な文脈で語られるに足るだけのハイブリッドなグルーヴを手に入れることとなった。まずはジャイルズ・ピーターソンの絶賛もあって日本でも話題になった前作『Talk Less Listen More』(2002年)から振り返ってもらおう。
「ところどころ粗い部分もあるけれど、あれはあれでいいと思ってるよ。バンドでスタジオで録音するのは初めてだったけど、自分たちでプロデュースもした。結果としては2つの側面が出ていて、まずはいろいろ挑戦する情熱があったこと。一方ではあまりプロらしくない音も出てるかもしれないってこと。まあ、そうやって作ったわけだから、一定のいいヴァイブはあると思う。当然挑戦したことで成功した部分もあるしね」(トゥオモ・プラター、キーボード/ヴォーカル:以下同)。
とはいえ、フィンランド国内では「いままでにない音楽というように受け入れられた。確かにほとんどの地元バンドはラジオ向けのロックだしね」というように、着実に支持を集めてきた彼らは昨年の冬にセカンド・アルバム『5am』をリリース。それがこのたび日本盤化されるというわけだ。
「今回は音にヴァリエーションが出てきて、違ったテンポやグルーヴ、ムードがうまく融合されたサウンドじゃないかな。歌詞も良くなっていると思うよ。エンジニアが替わったから、全体的に音がソフトで含みのある感じになってるかな」。
ちなみにアルバム・タイトルの由来はこうだ。
「ジョークがきっかけだよ。歌詞で〈5AM In The Morning〉という箇所があって、〈AMとIn The Morningって同じじゃん?〉ってアキか誰かに指摘されてやり直したんだ。で、アルバム・タイトルを決める際にそれが出てきたってわけさ。そしたら、歌詞のなかの出来事が5時に起こっていることが多いということにも気付いた。1曲目の“30th Hour”は恋に落ちて初めて一晩中起きていることを歌ったものなんだけど、そこに〈いつもの24時間とあともう数時間ほしい〉という部分があって、その〈30th Hour〉は5時なんだ。“Think We should”は5時に起こったカップルの喧嘩についての歌だしね。それでこれがアルバムのテーマにもなったってわけさ」。
夜のような、朝のような、空がまだ明け切らない午前5時。その曖昧な時間帯にハマるスムースで聴き心地のいいサウンドはどこからやってきたのだろう。
「僕らはエリカ・バドゥやディアンジェロ、ルーツなどネオ・ソウルに強く影響されてきたんだ。クラシカルなソウルやファンクにも影響を受けているし、今回のアルバムではアフロビートのリズムも模索したね。メンバー個々のテイストはバラバラだけど、大きく共通していることというなら、音楽性やスタイルに対してオープンマインドである、ということかな。自分たちの音楽に対してもそのオープンマインドなところを追求していると思う」。
そうやって、彼らは自分たちの〈真髄〉を突き詰めているのだ。
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