東田トモヒロが地元熊本で送る、シンプルでクリエイティヴなミュージック・ライフ
熊本を拠点に活動するシンガー・ソングライター、東田トモヒロ。彼に話を訊いた場所は、葉山のライヴスペースであるBLUE MOON。Caravan、そしてSpinna B-illとのライヴの合間をぬってのインタヴューだ。目の前には大海原が広がる最高のロケーション、テレコの横を犬や子供が忙しなく行き交い……そんな状況のなか、東田との会話はゆったりとスタートした。最初の質問は、〈なぜ熊本で音楽制作を続けるのか?〉。
「いちばんはお金がかからないのと(笑)、音楽作りに没頭できること。〈ホームを持つ〉というのは音楽を長く続けるうえで必要なことなんですよね。CaravanにしてもKeisonにしてもホームがありつつ、フッと歌える場所がある。僕も同じ。昔のブルースマンだってそうでしょ? マディ・ウォーターズにしてもいくら有名になっても地元で歌い続けていたし。音楽をビジネスとして考えると地元を離れちゃうんですよ。僕もそこを踏み外したくないけん、自分がどこから来ているのか、というところを大切にしたい」。
東田はメジャー・レーベルからアルバムを数枚リリースした後、今年4月のミニ・アルバム『Nameless Song』から自主制作での音楽活動をスタートさせた。熊本を拠点にして町から町へ……そう、まさに旅をするように。
「出し方もあんまり戦略的にならずに、〈出来たから出そう〉みたいにやれる。それに、お客さんに対しても遠くから投げるんじゃなくて、一枚一枚手渡しできる感じの制作ができるのはすごく嬉しいですよね。いろんな仲間たちと出会って音楽をやるっていうのは、うまくいこうがいくまいが絶対いい経験になるはずだし。26歳ぐらいからその感覚は変わらないけど、やるほどにシンプルになっていく。サーフィンといっしょですね」。
東田はそう言って、こんがりと日焼けした顔を少しクシャッとさせながら笑い、旨そうにビールを一口呑んだ。リリースされたばかりの彼のミニ・アルバム『ジャマイカ』は、そんな彼の顔が見えるようなアルバムだ。ほとんどのパートを自宅で録音したという今作、“モノクロームの夏”には80年代のAORをアコースティックでやったようなおもしろみがあったり(彼はボビー・コールドウェルを愛聴しているそうだ)、“FUNKY DRIVE”にはジャム・セッションの生々しさを含んだオーガニック・ファンク的な迫力があったり、なかなか凝った内容だ。
「リズムだったり雰囲気だったりにワビサビが効いてないと作品にしたくないし、ライヴでやりたくない。僕、ビートルズが好きなんですよ。しかも大味な『Let It Be』とか。メロディーが良くてセンチメンタルで……そこからの影響は大きいと思う。バラバラで半分いい加減に作った後期の、ね。だから、基本はポップ。あっという間に歌えちゃうポップ感を大切にしてる」。
9月10日には彼が中心となって熊本を舞台に〈NATURAL ROCK CARNIVAL〉というイヴェントが開催される。出演するのはCaravan、Keison、Magnolia、Spinna B-ill、RAS TAKASHIほか……つまりは彼が旅の途中で出会った仲間たち。東田は「熊本がいいところっていうのを実感してもらいたいけん、場所や会場作りにもこだわりたい」と話す。しっかりとしたヴィジョンを持ち、自身のスタンスを貫きながら音楽制作を続ける音楽家たち。その輪は熊本にも拡がっているのだ。
▼東田トモヒロの作品を一部紹介