birdが宮古島でフリーライヴを決行。そこで彼女が感じたものとは……
「普段のライヴでは見かけないようなおじいちゃんやおばあちゃんから赤ちゃんまで来るし、世代を超えて音を通じて繋がれる貴重な場所なんです。砂でガーッとか遊んでいる人もいるし、呑んで気持ち良くなってる人もいるし、みんな好き勝手にやってる。それがいいんじゃないですかね。フリースタイルで楽しんでもらえる、ただそこに音楽があるという。来たらホントにハマりますから」。
〈へぇ~〉とか〈ほぉ~〉とか馬鹿みたいな相槌を繰り返しながら、birdが話す宮古島ライヴ談を聞いていた。去年の7月に続き、今年の6月25日、彼女は彼の地で野外ライヴ〈bird SUNSET FREE LIVE in 宮古島 ~save the coral/ocean~〉を行った。今回5,000人もの観客を集めたらしく、地元の人たちにも島外の人にもこのイヴェントが定着しつつあることを窺わせる。
「仕事なんだけど仕事って気分じゃない、みたいな感じですよね。今年は宮古の人に〈おかえり〉って言ってもらえて」。
なお今回のフリーライヴには、大量発生したオニヒトデの食害からサンゴ礁を守ろう、というチャリティーのテーマが掲げられていた。その点を彼女に質問すると、「単純にキレイなビーチでまたライヴをやりたいじゃないですか、ただそういう思いだったんですよ」という返事。ごくシンプルな姿勢でこのコンサートに臨んでいるってことを確認でき、なるほどと納得。さて、ライヴ話の続き。
「開演時間が決まってるんだけど、みんな島時間でちゃんと来ない。それでサバ読んで、後ろ倒しするんです。でも、テクテク歩きながらやってくる感じがね、いいんですよ。ほんまなにもせんでいい。野外の特殊な場所なので、日が暮れかかったら夕方っぽい曲をやるとかそれぐらい。後ろには海が広がってるし、波の音がずっと聞こえてくるし、舞台がしっかり出来上がっているから。とにかく大っきい時間が流れているので、そこに身を委ねるのがいちばん気持ちいい」。
いわゆる〈夏フェス〉のムードとはまったく異なる世界がそこにある。彼女がこのライヴに関しては「手作り感を大事にしたい」と言う理由が、こういう話を聞いているとよく理解できるな。俺がその場にいたならば、きっと腕時計を砂の中に埋めてしまうことだろう。
さて、どうだろう? こういう体験は、彼女のシンガーとしての姿勢になんらかの影響を与えたのではないか?と思うのだが。
「うん。歌う姿勢、フツーに音を出せば成立するんやってことを教えられた」と彼女。素直に自分の歌と向き合うこと、ただそれだけで許される空間だもの、その開放感たるやタマらんものがあるだろう。
「東京とかだと、なにかしなくちゃいけないっていう考えがどこかしらでよぎることもあるんですけど、ここではなにかやったら逆にその空間に逆らってるような感じがするというか。そうやなぁ……ここで得たのは、自信というより安心、ですかねぇ」。
旅好きの彼女、出かけるなら「ゆったりした時間の流れている暖かい場所が多い」という。いろんな土地や人々との出会いは確実に彼女の音楽作りに刺激やアイデアを与えているに違いない。今回リリースされたニュー・シングル“童神”(古謝美佐子の名曲のカヴァー)を聴けば、そこに確実に宮古の風が流れていることが感じられるし、〈彼女の中にチャンネルがひとつ追加されたな〉という感を抱く。なにより〈自分らしく〉っていう意志が歌から伝わってくるところが良くて、その結果bird的力強さを持つ、オリジナルとは異なる色の仕上がりとなった。
「今はもっといろんなところでライヴをしてみたいですねぇ。ここ、ってすぐにパッと浮かばへんけど。そうやなぁ、どこがええやろ?」。
あのぉ、伊豆七島のほうにすごい島があるそうなんですけどね……。
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