HERITAGE PAVILION(2)
『My Cherie Amour』 Tamla(1969)
前作より引き続いてヘンリー・コスビーが制作。前作同様に勢いのあるアップも登場するが、ビートルズの“Michelle”に影響されたという表題曲や、続いてヒットした“Yester-Me,Yester-You,Yesterday”のようなメロディアスなナンバーが増えた。また、ドアーズ“Light My Fire”やスタンダード曲“The Shadow Of Your Smile”などからも、当時のラヴロマンス映画のような場景が目に浮かぶ。激動する社会状況を尻目にラヴソングに徹する姿が愛しい。(林)
『Signed, Sealed & Delivered』 Tamla(1970)
ポール・ライザーらのサポートを得ながら、初めてセルフ・プロデュースに乗り出した記念碑的な作品。歓喜に満ちたシャウトがウキウキ気分を誘う自作曲“Signed, Sealed, Delivered I'm Yours”が大ヒット。新妻のシリータ・ライトや母親のルラ・ハーダウェイが共作者に名を連ねている点にも注目。一方で、ビートルズ“We Can Work It Out”の原曲超え(と言ってしまおう)カヴァーも収録されており、そういう意味では60年代フレイヴァーをまだ濃厚に残した分岐点的な内容ではある。(出嶌)
『Where I'm Coming From』 Tamla(1971)
シンセの導入や内省を強めた歌詞など、70年代スタイルの先駆けとでも言うべき実験的な内容の本作。全曲が当時の奥方シリータとの共作で、プロデュースも初めて全編をスティーヴィー自身が手掛けている。アルバムのトータル性を最重要視したためか、シングル・ヒットは“If You Really Love Me”のみに止まったが、98年のサントラ『Belly』にてジェロームに歌われるなどした“Never Dreamed You'd Leave In Summer”など隠れ名曲もあり。(林)
『Music Of My Mind』 Tamla(1972)
この年のモータウンとの契約更新で創作上の完全な自由を手に入れたということもあり、ついに彼の研ぎ澄まされたクリエイターとしての才能が解き放たれた感もある記念碑的作品。シンセを大胆に導入したサウンドはいま聴いても斬新で、この年に離婚したシリータとの仲を匂わせた歌詞が意味深な“Superwoman”ではムーグを自在に操って独自の音世界を表現している。ただ、この後の快進撃を思えば、本作は単なる序章にすぎなかったのだが……。(卯之田)
『Talking Book』 Tamla(1972)
当時の愛人に捧げたぽかぽかのラヴソング“You Are The Sunshine Of My Life”も、ジョージ・オーウェル「1984年」を引用しながら権力者を穏やかに糾弾した“Big Brother”も違和感なくコンセプチュアルに並んだ傑作アルバム。ジェフ・ベックの感傷的なギターが泣ける“Lookin' For Another Pure Love”など色彩感覚に富んだ名曲が多いが、そのベックのために書かれた“Superstition”が当然トドメ。クラヴィネットがギロギロした瞬間に凄い曲だとわかるのが凄い。(出嶌)
『Innervisions』 Tamla(1973)
70年代の名作群のなかでも、とりわけ社会意識が色濃く反映された、いわゆる〈ニュー・ソウル〉的なアルバム。後世への影響も絶大で、“Too High”“Living For The City”などファンク感を打ち出した挑戦的な曲があれば、サルサのリズムを採り入れた“Don't You Worry 'Bout A Thing”などソウルの枠を飛び越えた曲もあり、多様なアプローチが耳を惹く。“Visions”におけるデヴィッドT・ウォーカーのギター・プレイも聴きモノ。名曲満載。(林)
『Fulfillingness' First Finale』 Tamla(1974)
前2作と合わせていわゆる〈3部作〉と称されるうちの最終章。緊張感に溢れていた前作に対し、1曲目の“Smile Please”から穏やかで優しい雰囲気の楽曲が並んでいる。まるで湧き出るかのような閃きから生み出されたサウンドやメロディーは相変わらず実に個性的で、まさに〈神懸り〉と呼びたくなるほど。“Creepin'”ではミニー・リパートンが、シングル・ヒットを記録した“You Haven't Done Nothing”ではジャクソン5がコーラスに参加している。(卯之田)
ジャクソン5の74年作『Dancing Machine』(Motown)
『Songs In The Key Of Life』 Tamla(1976)
前作から2年という当時の彼にしては長い沈黙期間を経たせいもあってか、およそ300曲にもおよぶレコーディング・リストから選び出されたという全21曲から成る超大作に。シングル・ヒットした“I Wish”“Sir Duke”“Another Star”“As”など誰もが一度は耳にしたことがあるはずの名曲揃いで、まさにワンダー・ポップスの集大成といった内容だ。95年にはフルート奏者のナジーが多くの名プレイヤーと共に本作をほぼ丸ごとカヴァーして話題となった。(卯之田)
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