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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2005年06月09日 14:00

更新: 2005年06月09日 17:40

ソース: 『bounce』 265号(2005/5/25)

文/出嶌 孝次

よりシンプルな歌の世界へ

 80年の『Hotter Than July』で明快なポップ路線を示した頃のスティーヴィーは精力的だった。まだ30歳だというのにすでに大御所扱いで、音楽シーンを超えて世間一般に対する影響力も増していった彼は、キング牧師の誕生日を祝日にすべく“Happy Birthday”を世に出し、その運動の一環でデモを実施したり、あるいは非核運動にも参加するなどして、活動家としても大きな存在になっていく。もちろん本業のほうでも、憧れのポール・マッカートニーとデュエットした“Ebony & Ivory”が全米チャートを制するなど、黒人アーティストがよりポップ/ロック・マーケットにクロスオーヴァーしていく流れに先鞭を付け、世界中を忙しくツアーで飛び回る〈ポップスター〉の生活を送っていた。また、プロデュース/客演をどんどん重ねていき、その引き合いも留まるところを知らなかった。が、自身の作品に対してはかなりプレッシャーを感じていたようで、どうしてもアルバム制作に踏み出せないという自体が起こっていたようだ。実際、朋友マーヴィン・ゲイの葬儀(84年)で歌った名曲“Lighting Up The Candle”が作品としてリリースされたのは91年のことだったりした。

 そんな状況から彼を解き放ったのが、“I Just Called To Say I Love You”の記録的なヒットだ。映画「ウーマン・イン・レッド」のためだからこそ気楽に作れたという同曲が受け入れられたことで、恐らくスティーヴィーはみずからの方向性を見定めたのではないだろうか。それは、広く、そして遠くまで届く普遍的なメッセージということだ。例えば、〈世界都市博〉のテーマになっていた“For Your Love”、あるいは日本のCMソング用に作られた“To Feel The Fire”……どっちの曲も、10分くらいで作ったんじゃないかと思ってしまう。あまりにも鼻歌のような歌じゃないか。もちろん悪い意味じゃなく、それほどのシンプリシティーを彼がめざしているのではないか、ということなのだが。
▼代表的なスティーヴィー・ワークスを収めた作品。

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