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カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2005年06月02日 17:00

更新: 2005年06月02日 18:46

ソース: 『bounce』 265号(2005/5/25)

真に自立したアーティストへ

 そして71年5月13日。21歳の誕生日がやってきた。信託基金に預けられていた100万ドルをスティーヴィーは受け取り、モータウンとの契約を更改しないままNYに移り住み、独自にレコーディングを開始した。そのアルバム、『Music Of My Mind』制作時に知り合ったのがシンセの扱いに長けたミュージシャン/エンジニアのマルコム・セシルとロバート・マーゴレフである。

 このふたりはとても重要だ。それを見抜いたアイズレー・ブラザーズも『3+3』などでふたりを起用。セシルは後にギル・スコット=ヘロンも手掛けるが、他にも彼はドゥービー・ブラザーズ『Captain And Me』やリトル・フィート『Dixie Chicken』など、ロック畑のアルバムにも参加している。セシルがプロデュースしたスティーヴ・ヒレッジの『Motivation Radio』もめちゃファンキーな傑作なのだ。

 セシル&マーゴレフやバンマスのネイサン・ワッツ(ベース)、マイケル・センベロ(ギター)といったバック・ミュージシャンの協力も得て、スティーヴィーの個性が全開したのが、よく3部作と称される『Talking Book』『Innervisions』『Fulfillingness' First Finale』、そして集大成であり、LP2枚+EP1枚という形で登場した『Songs In The Key Of Life』だ。実験的でありつつ、どの作品も優れてポップ。グラミー賞主要部門を独占する常連にもなり、75年度のグラミー授賞式ではポール・サイモンが「スティーヴィーが今年アルバムを出さなかったことに感謝したい」とスピーチしたほどだった。実は73年8月、彼は移動中に自動車事故に遭い、4日間も生死の間を彷徨う瀕死の重傷を負っている。後遺症で味覚と臭覚も失った。にも関わらず〈Key Of Life〉のようにポップな大作をモノにしたのだから、驚異的な精神力というほかはない。

そして、ポップの頂点に立ったスティーヴィーだからこそ、それから3年の沈黙を経てリリースしたのがサントラの『Journey Through The Secret Life Of Plants』であったことは驚きだった。映画は植物の生態を描いた極めて学術的なものと昔から言われているが、ぼくは未見だ。監督を務めたウォロン・グリーンが本来は脚本家で、「ワイルド・バンチ」から「ロボコップ2」「イレイザー」「ER」にまで関わった人物なのも気になるところ。しかしこのアルバム、流れが見事で、何度聴き返しても飽きない雑草のようなしぶとさも持っている。スティーヴィーの70年代は穏やかに幕を下ろしていったのだ。

▼スティーヴィー・ワークスを収めた作品

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