インディーのほうがいいだろ?
インディー・ソウル(R&B)が盛況だという。もちろんそれはいまに始まった話ではない。ただ、高品質なインディー作品に出会う回数が年々増えているのは事実で、もはや〈メジャーに敵わないインディー〉という考え方は通用しなくなってきている。そこには、一部のマニアたちに偏愛されていた頃のような閉鎖的な雰囲気もないし、メジャーとインディーという線引きさえ、もはや必要ない気もする。最近は機材の発達やそれに伴う制作コストの低下で、たとえインディー・アーティストであろうとセンスさえあればそれ相応の作品を仕上げることができる時代だ。そもそもR&Bは本来〈歌〉が主役の音楽。流行に追随するメジャーのトラック偏重気味なやり方を嫌って、あえてインディペンデントでの活動を選ぶ人も増えてきている。そうした人たちのなかには現在のメジャーR&Bが失いかけている歌本来の魅力を伝えてくれるシンガーも少なくないが、そんなことを身をもって示してくれる新鋭、それがテレルだ。
NYのイースト・バッファローに生まれた彼は、デトロイトの教会でノドを磨き、フレッド・ハモンドのオーディションで才能を認められて、ゴスペル・シーンからそのキャリアをスタートさせている。クラーク・シスターズの大ファンで、「彼女たちは僕のヴォーカルの生みの親」とまで語る彼だが、なるほど、バックトラックを飲み込んでしまうような逞しい歌唱はまさに教会仕込みのそれ。しかもセクシーとくる。
「そう、僕はゴスペルがルーツにあるR&Bシンガーだね。ヴォーカル・スタイルや歌詞にもそれはよく表れていると思う。ただ、アルバムではヴァネッサ・ベル・アームストロングとの“Gospel Interlude”以外の曲はR&Bだね。恋愛について歌ってるんだ」。
このたび日本盤が登場したアルバム『Terrell』では、ドレー&ヴィダルやコワン・ポールなどメジャーでも活躍するプロデューサーを起用。そのクォリティーの高さをして〈デビュー作とは思えない〉との感想も聞こえてきそうだが、実は本作の前には『The Story』という2003年リリースのアルバムがあり、新作にもそこから数曲が再収録されている。テレルいわく「前作はテスト盤で、今回の『Terrell』こそがデビュー作だと考えている」のだそう。とにかく、ヴォーカルを徹底重視したプロダクションが素晴らしい。
「僕は絶対的にヴォーカルの素晴らしさを信じてる。とにかく歌の内容とヴォーカルにこだわっているよ。自分自身でヴォーカルをプロデュースしてるんだ。だからレコーディング中はほとんど誰も中に入れない。外部からの影響で仕事を邪魔されるのが嫌でね」。
そんなテレル、実はメジャーからオファーを受けていたという。
「でも彼らがオファーしてきたことは自分でやってできないことでもなかったんだ。だったらインディペンデントにいるほうがいいだろ? メジャーの会社は、アーティストじゃなくてお金作りに躍起になってて、ひとつ成功したら、たくさんの似たり寄ったりのものを作ってしまう。でも、ブランディやインディア・アリー、デスティニーズ・チャイルド、ケリー・プライスなんかは尊敬しているんだ。男性ではスティングを尊敬しているけど、フェイス・エヴァンスやビヨンセのような女性シンガーとならおもしろいものができそうだよ」。
すでにインディア・アリーをフィーチャーした新曲に取り組んでいるというテレル。この先が楽しみなシンガーだ。
「次のアルバムは母親に捧げるんだ。『Terrell』とはまったく違うものになるよ。時代に合わせて僕の音楽も進化させ続けたいからね」。
こういう人がインディーで活動を続ける限り、今後、メジャーとインディーの差はますます縮まっていくだろう。
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