こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

特集

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2005年03月17日 16:00

更新: 2005年03月17日 18:55

ソース: 『bounce』 262号(2005/2/25)

文/バルーチャ・ハシム

静寂に包まれて──スコット・ヘレンがその多才ぶりを発揮した渾身のニュー・アルバム

 ビートの魔術師、プレフューズ73が戻ってきた! サヴァス&サヴァラス名義のアルバムで見せつけたブラジリアン・ポップスの世界までもプレフューズ73に取り込み、ゴーストフェイスなどメジャーなヒップホップ・アーティスト、エル・Pやエイソップ・ロックなどアンダーグラウンドのMC、そして注目のインディー・バンドであるバトルズ、ブックス、ブロンド・レッドヘッドなどをフィーチャーしたニュー・アルバム『Surrounded By Silence』は、さらにスコット・ヘレンの世界を深く露呈した傑作だ。ヒップホップ、インディー・ロック、ブラジリアン、ソフト・ロック、エレクトロニカまでも融合させた今作は、革命的作品としてふたたび語り継がれるだろう。
▼プレフューズ73の作品

いままでのルールは捨てることにした

――今作のコンセプトは?

「今回のアルバムでは、すべてのヴォーカリストを集めてコーディネーションするのも自分の責任だったんだ。それを1時間のアルバムに収めて一貫性を出さないといけなかった。『Surrounded By Silence』というタイトルは、僕がレコーディングしてる最中に、〈静けさ〉が欲しかったからつけたタイトルなんだ。静けさに包まれたかったんだ」

――なぜ今回はヴォーカル主体の作品にしたんですか?

「いままでやったことがないからだよ。外部の仕事で、他のヴォーカリストをプロデュースしたことはあったけどね。自分のアルバムでは、ヴォーカリストたちをいつもと違う環境に入れてみたかったんだ。だから、ここまで多様な人が参加してるし、意外性のある人を起用してみたんだ。彼らにビートを提供するときは、彼らのことを意識して作ったんだ。でも歌ってもらってから、それに合わせてトラックを手直ししたんだよ」

――ファーストを出した後は、あなたのトレードマークである〈ヴォーカル・チョップはやめた〉と宣言してましたが、またやるようになりましたね。

「プレフューズとしてやってきたことを、全部今作でブレンドしたかったんだ。〈こういうことはやらない〉とか、いままでのルールはもう捨てることにしたんだ。前は〈プレフューズでは生演奏を入れない〉と決めていたんだけど、今回はドラムなども自分で叩いたりしたしね」

――ゴーストフェイスというメジャーなヒップホップ・アーティストとコラボレーションできたのは快挙ですね。

「ゴーストフェイスとは直接会って作業はできなかったんだ。彼は自分の住まいから基本的に離れないし、人と話さないんだ。それに、決まったスタジオでしかレコーディングしないんだよ。凄く捕まりにくい、変わった人なんだ(笑)。でも、いろんな音楽に対してオープンみたいだよ。彼と会って話し合うことができなかったのは残念だったけど、いい曲が出来たよ。ゴーストフェイスは、すごく時間をかけてレコーディングするから、僕とエル・Pはずっと待ってたんだ。この曲でゴーストフェイスはスリック・リック系のストーリーテリングをやってくれて、エル・PはBボーイ系のリリックをやってくれた。この曲はHot 97(NYでもっともメジャーなヒップホップ・ラジオ局)でもかかったんだ。この曲がHot 97でかかったのは、歴史的なことだよ。エル・PとゴーストフェイスがプレフューズといっしょにHot 97でかかったんだからね(笑)。このことは、まさに僕らがプロデューサーとして何が実現できるかを証明してるんだ。進歩的なアイデアの実現方法を考えることが大事なんだ。奇跡的に実現したんだよ」

――同じくウータン・クランからマスター・キラーとGZAも参加してますね。

「ウータン・クランのなかで、マスター・キラーとGZAが大好きだったんだ。特にGZAの『Liquid Swords』が大好きなんだよ。彼らがビートを気に入ってくれるなんて、本当に信じられなかったね」

――タイヨンデイ・ブラクストンが参加してますが、バトルズのファンなんですか?

「そう。実は彼らをワープと契約させようとしてるんだよ。タイヨンデイには家に来てもらって、彼のヒューマン・ビートボックスをレコーディングしたんだけど、本当に驚いたね。彼は口から3つの音を同時に出せるんだ」

――トムラブのブックスも……。

「彼らの大ファンなんだ。ツアー中にフォー・テットから、『The Lemon Of Pink』を聴かされて、圧倒されたんだ。彼らにメールして話すようになったんだけど、彼らは僕の音楽を聴いたことがなかったんだ(笑)。彼らからパーツをもらって、実はそれでEPも作っちゃったんだよ」

――“Now You're Leaving”に登場のカムーはデフィニティヴ・ジャックスのラッパーですけど、ここでは歌ってますね。

「そう、彼とエル・Pはセントラル・サーヴィセズというユニットを始めたんだ。カムーの声のレンジは素晴らしくて、アル・グリーンやアクセル・ローズっぽい歌い方もできるんだ(笑)。カムーは1日でやってくれたんだ。あまりにもドープだったから笑っちゃったよ。この曲はディプロとSA-RAがリミックスしてくれることになってる」

――“We Go Our Own Way”ではブロンド・レッドヘッドのカズ・マキノさんが参加してますね。

「ブロンド・レッドヘッドもずっと前からファンだったから、カズと仕事できて光栄だったよ。彼女は僕の家に来てレコーディングしたんだ。〈どう歌ってほしいの?〉というふうにすごく細かく訊いてくれたし、すごく深く共同作業ができたんだ。彼女が通常歌うような曲とまったく違うしね。3時間くらい作業したんだよ。凄くクールな人だったし、話しやすかった。彼女は京都出身なんだよ。凄くタイトなコラボレーションができた」

――レコーディング中にあったおもしろいエピソードなどはありましたか?

「ビーンズは〈ポルノを観ながらじゃないとレコーディングできない〉と言ったんだ。だから、彼のためにポルノを借りてレコーディングしたんだけど、彼がそれを観ながらラップしてる光景は笑えたね(笑)」

――今後の予定は?

「ピアノとドラムだけで作ったピアノ・オーヴァーロード名義の作品をチョコレート・インダストリーズから出すんだ。これはアメリカの移民問題を扱った政治的な作品なんだよ。ジョン・マッケンタイアがドラムを叩いてるんだ。タイヨンデイとコラボレーションをやったし、今作に参加してるクローディア・デヘーザともコラボレーション作品を作ったんだ。今作のアウトテイクがたくさんあるから、それもリリースすると思うよ」
▼スコット・ヘレンの別名義であるサヴァス&サヴァラスの作品

▼ゲスト陣の近作を一部紹介

▼ゲスト陣の近作を一部紹介

インタビュー