A to Z for BLUES(J~Z)(2)
MUDDY WATERS【マディ・ウォーターズ】
(1) 68年作『Electric Mud』(Chess/MCA)
(2)シカゴ
(3) 語るのもおこがましいシカゴ・ブルース最大の立役者であり、ブルース界きっての巨人。〈ローリング・ストーンズはマディの曲名からそのバンド名を戴いた〉など逸話にも事欠かず、代表曲“Hoochie Coochie Man”などの国籍を問わないカヴァーされまくり具合や、68年作『Electric Mud』でロック~サイケデリックを大胆に採り入れたことなどから、ロックとの影響関係も深い。40年代後半~50年代にエレクトリック・バンド・サウンドでのブルースを確立させ、チェス・サウンド/シカゴ・ブルースをひとつの域にまで昇華させた功績は大きく、その強烈かつ繊細な歌心とスライド・プレイは唯一無二の存在感を放った。また、マディのバック・メンバーにはその後出世した大物も多く、さながら〈シカゴ・ブルース虎の穴〉といったところ。
(4) ジミー・ロジャース、リトル・ウォルター、オーティス・スパン(石田)
NEVILLE BROTHERS【ネヴィル・ブラザーズ】
(1) 89年作『Yellow-Moon』(A&M)
(2) ニューオーリンズ
(3) 混血を重ねながら独自の文化を育んできた北アメリカ最南端の港町、ニューオーリンズ。ブルースをはじめとする多種多様な音楽をマル呑みした彼の地の音楽が持つヴァイタリティーを受け継ぎ、その魅力を最良の形で体言してきたのがネヴィル4兄弟です。シンコペーションの効いた強烈なリズムを持つセカンドライン、〈世界最強のライヴ・バンド〉と謳われるその実力。また彼らは、アフロ・アメリカンとしてニューオーリンズに生まれたことに誇りを持ち、そのアイデンティティーを音楽で表現しようとしてきました。偏見のない音楽性、豊かな表現力、強いメッセージ性、そして揺るぎないスタンス。他に類を見ない才能でニューオーリンズのすべてを愛し、黒人音楽が持つ歴史すべてを受けとめてきた希有な存在が彼らなのです。
(4) ミーターズ、ワイルド・チュピトゥラス(秋山)
REDISCOVERRY【リディスカヴァリー】
再発見。50~60年代のブルース・リヴァイヴァルの折、白人のブルース研究家が、戦前に録音を残していたブルースマンの消息を辿り、見つけ出し、ふたたびレコーディングやコンサート出演などに引っ張り出す、という事態が多発した。それを〈再発見〉と称する。サン・ハウス、ミシシッピ・ジョン・ハート、スキップ・ジェイムス、ブッカ・ホワイトなどが代表例。(小出)
ROBERT CLAY【ロバート・クレイ】
(1) 90年作『Midnight Stroll』(Polygram)
(2) ジョージア
(3) アルバート・コリンズのステージに衝撃を受け、ブルース道に進むことを決意。80年にトマトからデビューを飾り、ブルース不毛の時代であった80年代に伝道師的な活動を展開する。86年のシングル“Smokin' Gun”が大ヒットとなり、ブルース・ファンのみならず、幅広い層からの支持を獲得した。その後もブルースの枠組みに収まらない意欲的なアルバムをリリースする。なかでも90年の『Mignight Stroll』はメンフィス・ホーンズを従えたサザン・ソウル色濃い作品で、その素晴らしい内容がソウル/リズム&ブルース・ファンも喜ばせた。オープンな姿勢と自由なスタンス、それがこの人のおもしろさ。その歌声もギタープレイも、歳を重ねるごとに一層味わい深さを増している。
(4) マジック・サム、スティーヴィー・レイ・ヴォーン(桑原)
ROBERT JOHNSON【ロバート・ジョンソン】
(1) 編集盤『The Complete Recordings』(Columbia)
(2) ミシシッピ
(3) ブルース・シーンでもっともミステリアスなアーティストであり、エリック・クラプトンやキース・リチャーズなど多くの信奉者を持つブルースマン。サン・ハウスらのデルタ・ブルースとリロイ・カーらのシティ・ブルースの影響を受け、〈悪魔に魂を売って手に入れた〉という伝説を持つ、およそ一人で弾いているように聴こえないギター・テクニックで歴史に名を残す。1930年代半ばに活動を行うも、1938年には毒殺された。残した録音はわずかながら、“Crossroads Blues”をはじめ、いずれも名曲揃い。そのどれもが現在でもスタンダードとして頻繁に取り上げられている。戦後のシカゴやロック・シーンにも影響を与えたが、もっとも直接的な影響は義理の息子であるロバート・Jrロックウッドが受け継いでいる。
(4) チャーリー・パットン、サン・ハウス(吉田)
SACRED STEEL【セイクリッド・スティール】
フロリダの〈ハウス・オヴ・ゴッド〉というキリスト教の宗派では、長年スティール・ギターをゴスペルの演奏に使ってきた。90年代後半、アーフーリーによる矢継ぎ早なリリースで、肉感的で聖なるサウンドが突如脚光を浴び、ロバート・ランドルフのようにジャンルを横断したスターも登場している。(小出)
SKIP JAMES【スキップ・ジェイムス】
(1) 編集盤『King Of The Blues』(Pヴァイン)
(2) ミシシッピ
(3) オープンE・マイナー・チューニングによる暗いギターの響きと、ファルセット混じりのハイトーン・ヴォーカルが絡み合って醸し出される一種異様なムード。そのサウンドが持つ深く落ちていくような感覚はヴィム・ヴェンダースをも虜にし、スキップにスポットを当てた映画「ソウル・オブ・マン」を彼に作らせることとなった。31年にパラマウントに吹き込んだ20曲弱の曲によって、オリジナルなミュージシャンとしての評価を確立。その後はギターと縁のない生活を送り、ゴスペル・グループなどで歌ったりしていたようだが、60年代の再発見ブームの際、ジョン・フェイヒーらによって〈再発見〉され、表舞台に立つことになる。また、クリームが彼の“I'm So Glad”をカヴァーしたことで、ロック・ファンの間でもその名が広く知れ渡るようになった。
(4) JB・ルノア-(桑原)
SLIM HARPO【スリム・ハーポ】
(1) 61年作『Sings Raining In My Heart』(Excello/Hip-O)
(2) ルイジアナ
(3) まったく力の入っていないような鼻にかかったヴォーカル、のどかなハーモニカなど、レイドバックした魅力を持つルイジアナを代表するブルースマン。1924年生まれ、本名はジェイムス・ムーア。57年にエクセロに初録音、以後70年に亡くなるまで、エクセロに80曲以上の録音を残す。当初はジミー・リードからの影響を強く滲ませていたが、60年代にはバラードの“Rainin' In My Heart”や、リズム&ブルース・タッチのダンス曲“Baby Scratch My Back”などをヒットさせた。キンクスやヤードバーズが“I Got Love If You Want It”、ローリング・ストーンズが“I'm A King Bee”“Shake Your Hips”をカヴァーするなど、英国ロック勢にも影響を与えている。
(4) レイフル・ニール、レイジー・レスター(小出)
SON HOUSE【サン・ハウス】
(1) 65年作『Father Of Folk Blues』(Sony)
(2) ミシシッピ
(3) デルタ・ブルースの巨人。1902年生まれ、本名はエディ・ジェイムズ・ハウスJr。もともとはバプティスト教会で歌っていたが、やがてチャーリー・パットンと交流を持ち、ブルースに身を染める。1930年に初録音。教会出身という出自をあきらかにした“Preachin' Blues”など、それぞれが2パートに分かれた3曲をSP盤として残す。ギターを始めてわずか数年の録音ながら、究極のデルタ・ブルース作品として知られる。その後、41~42年に国会図書館用の録音を残し、ほどなく音楽からは身を引いていたが、64年に再発見され、70年代に入るまで、ロバート・ジョンソンやマディ・ウォーターズにも決定的な影響を与えたデルタ・ブルースの生きる伝説として活躍。ヨーロッパにも渡った。88年に死去。
(4) チャーリー・パットン、ブッカ・ホワイト(小出)
SONNY BOY WILLIAMSON【ソニー・ボーイ・ウィリアムソン】
(1) 編集盤『Down And Out Blues』(Chess/MCA)
(2) シカゴ
(3) 本名はアレック・ミラー。先に全国的な人気を得ていたジョン・リー“サニー・ボーイ”ウィリアムソンにあやかった芸名を名乗ったり、〈生来の大嘘つき〉(by ジョニー・シャインズ)と言われるような、なんとも憎めぬ胡散臭さ漂うキャラクターだが、肉声を思わす生ハープの魅力では右に出るものはない、ブルース・ハーモニカの巨人である。諸説あったが1910年生まれで、30年代にロバート・ジョンソン、エルモア・ジェイムスらと南部で活動。41年から放送されたラジオ番組〈キング・ビスケット・タイム〉で人気を博し、絶大な影響力を誇る。初録音は51年。50年代半ばにシカゴに移り、チェスに多数の名作を残した。64~65年には渡欧し、ヤードバーズやアニマルズなどとも録音を残した。65年に故郷へレナで死亡。
(4) スヌーキー・プライヤー(小出)
TAJ MAHAL【タジ・マハール】
(1) 77年作『Music Fuh Ya』(Warner Bros.)
(2) NY
(3) ライ・クーダ-とのライジング・サンズを経て、67年にコロンビアからデビュー。その後豊かな音楽道を歩んできた彼は、ルーツであるブルースをベースに、フォークやジャズ、レゲエやカリプソといったカリビアン・ミュージックのほか、ハワイアンなども取り込みつつ、〈タジ・ワールド〉と言うしかない音楽をクリエイトしてきた。かつてはインテリ・ミュージシャンというレッテルを貼られて語られることも多かったが、いつの間にかそういった声もなくなった。ミュージシャンズ・ミュージシャンとしてリスペクトされ、アメリカ音楽界の良心として信頼される彼は、いまだに好奇心を大きく広げたユニークな作品を作り続けている。名作は多数あるが、77年の『Music Fuh Ya』を代表作として挙げたい。
(4) ライ・クーダ-、ベン・ハ-パー(桑原)
T-BONE WALKER【Tボーン・ウォーカー】
(1) 編集盤『モダン・ブルース・ギターの父』(東芝EMI)
(2) テキサス
(3) モダン・ブルース・ギターの父??Tボーンを一言で言い表すならば、この言葉がぴったりだ。エレクトリック・ギターを用いた単弦奏法でブルース・ギターの可能性を拡げた革命者であり偉人である(ジャズ・ギターの革命者、チャーリー・クリスチャンとの親交もあった)。デビュー音源を吹き込んだのは1929年のことだが、まず聴くべきなのは本領を発揮した42年以降の録音だ。ジャジーなコード進行にホーン・セクションを導入したモダンなスタイルで、スロウ・ブルースの傑作“Call It Stormy Monday”、ひとつの売りとなったシャッフル・ナンバー“T-Bone Shuffle”などのスタンダードを残している。ピーウィー・クレイトンの初期のスタイルなどは、Tボーンからの影響を多いに受けている。
(4) クラレンス“ゲートマウス”ブラウン、ロイ・ゲインズ(吉田)
【無限大】
映画「ソウル・オブ・マン」のなかに、ブラインド・ウィリー・ジョンソンの“Dark Was The Night”を乗せて宇宙へと旅立ったヴォイジャー号のエピソードがありました。そう、ブルースの聴き方は無限大。あなたはどれから聴きますか?(編集部)
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