SWEET HOME CHICAGO
ここでちょっとひと休みして、ブルースの本場であるシカゴの現在を覗いてみましょう
ニューオーリンズのフレンチ・クォーターやメンフィスのビール・ストリートのような、クラブが軒をひしめく音楽観光区域はシカゴにない。0.2ヘルツ毎のFMにもブルース専門局はないし、ブルース神社やブルース饅頭などは聞いたこともない。それでもブルース・クラブが30軒ほど点在し、毎日どこかのFM局では地元ミュージシャンのブルースが流され、デパートで、本屋で、スターバックス・コーヒーでBGMにブルースが流れ、毎年6月に行われる市主催の〈シカゴ・ブルース・フェスティヴァル〉には4日間で100万人近くの人々が世界中から訪れる。やはりシカゴはブルースの〈メッカ〉なのだ。
人々の生活に溶け込んだブルースは、ライヴ・シーンでさまざまなスタイルに開花して受け継がれている。〈オールド・スクール〉と呼ばれる伝統的なシカゴ・スタイルはさすがに少なくなったが、白人マニアを中心に今も健在で、ブルースマン2世のギタリスト/ヴォーカリスト、ルリー・ベル(父:キャリー・ベル)やエディ・テイラーJr(父:エディ・テイラー)などの評価は高い。同じ2世でもロニー・ベイカー・ブルークス(父:ロニー・ブルークス)になるとロック色が強く、それぞれが父親のスタイルを受け継いでいることを窺わせる。
〈Rosa's Lounge〉 にラッキー・ピーターソンが出演したときには、遊びに来ていたリコ・マクファーランド、メルヴィン・テイラー、チコ・バンクスという〈シカゴ3大速弾きギタリスト〉が共演した。彼らはジミ・ヘンドリックスを経て、ファンク、ジャズの要素を加味してきたという共通項を持ち、互いを意識しているので、アルバムでは聴けない〈火を吹く〉ようなギターで意地を張り合っていた。
2004月11月に25周年を迎えた〈B.L.U.E.S.〉や、その斜め向かいにある〈Kingston Mines〉は、観光客だけでなく地元の人にも人気のクラブで、オフのミュージシャンが毎夜たむろしてる。店から認知されると同行者を無料で入場させられるだけではなく、酒類は半額、コーラなどはタダという格好の遊び場でもあるのだ。なかでも〈Kingston Mines〉は2つのステージを持ち、午前4時まで営業しているので(通常は2時まで)、演奏帰りのミュージシャンたちも立ち寄り、最終セットはセッションとなって賑わう。リズム&ブルース系のヴァンス・ケリーやチャーリー・ラヴによる決まりごとの多いショウも、そうなると勢いだけで終わることが少なくない。しかし、カルロス・ジョンソンが現れると〈場〉は一変してしまう。発表作品が少ないにも関わらず、いまや伝説化したカルロスは、切ない唄や魂を搾り取られそうになるギターで、観る人だけでなく共演者をも昇華させる魔力を持っているからだ。
そのカルロスをはじめ、ソウルフルな唄声のカール・ウェザースビーやJW・ウィリアムス、上記のルリーたちが、世界のブルース・ハープをリードするビリー・ブランチのバンドであり、現在私や丸山実(ギター)が在籍するザ・サンズ・オブ・ブルースの出身者だというのは興味深い。私たちが毎週月曜日に出演する〈Artis's〉はサウスサイドの閑静な住宅地にあり、比較的安全に黒人系クラブの雰囲気を楽しめるため白人客も来店する。
ゾラ・ヤングやビッグタイム・サラら女性ヴォーカリストに混じって、ボトルも使った凄まじいギタープレイを聴かせるジョアンナ・コナー、バレルハウス系ピアノではシカゴ随一のバレルハウス・チャックなど、非アフリカ系ミュージシャンも異色で、〈本場〉の裾野の広さを感じさせてくれる。
ライヴハウス・シーンには、録音では残せない〈思い切り〉と〈熱〉が溢れている。お手元のCDから音の行間を読み(聴き)取って、シカゴの街に想いを馳せていただきたい。とんでもない掘り出し物が隠れていることもあるから。
▼文中に登場したアーティストの作品を一部紹介。
ルリー・ベルの99年作『Blues Had A Baby』(Delmark
エディ・テイラーJrの2004年作『Worried About My Baby』(Wolf)
アリヨも参加したリコ・マクファーランドの2001年作『Tired Of Being Alone』(Evidence)
▼文中に登場したアーティストの作品。
有吉須美人
〈アリヨ〉の愛称で親しまれている、シカゴ在住のブルース・ピアニスト。83年に初渡米後、数々のブルースマンのバックを務める。2000年からはビリー・ブランチ&ザ・サンズ・オブ・ブルースの一員として活躍し、2003年の〈シカゴ・ブルース・フェスティヴァル〉では東洋人として初めてソロ演奏を披露した。
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