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BRUCE SPRINGSTEEN


〈後戻りはしないし/そう、降伏なんてしない〉──アコースティック・ギターを弾きながら“No Surrender”を歌うブルース・スプリングスティーンの姿がTVから流れてきた。場所はウィスコンシン州マディソン、何万という数の聴衆が彼を取り囲んでいる。画面の隅に10月28日という日付けのテロップ、そして間もなくジョン・ケリーがフレームインしてきた。スプリングスティーンは彼への応援歌として84年に発表したこの友情讃歌を捧げた。

 猪突猛進。最近のスプリングスティーンを見ていると思わずこう漏らしてしまう。現大統領ならびに政権はどうやらスプリングスティーンを本気で怒らせてしまったらしいな、ということは言動からはっきり窺うことができた。その突進していく馬力たるや、自殺マシンに乗ってハイウェイ9を疾走してた頃と比べて何倍にもなっているといった印象である。それにしてもこの威風堂々ぶり。貫禄といい、近頃のビートたけしに似てるよな……と呟いてみたりした。

〈あの光で目がくらんで/ママがいつも言ってた/太陽を見つめるんじゃないよって/でもママ、そこにおもしろいことがあるんだ〉(“Blinded By The Light”より)──アルバム『The Essential Bruce Springsteen』のスリーヴにあるスプリングスティーンの顔を見るといつも“Blinded By The Light”のハミングがうっすらと聞こえてくるのだ。この頃の彼は、首を窄め目を凝らしてストリートを観察する夜行性の詩人であり、闇の共鳴者であった。当時の歌詞の中には、夜と闇、そしてそれらを想起させる言葉が頻出するが、同じぐらい、光、灯り、といった言葉も見つけることができる。今夜こそあの向こう側へ辿り着きたい、この闇を突破したい、そう希求し続ける彼が歌の中に生きている。

カテゴリ : ピープルツリー

掲載: 2004年12月24日 17:00

更新: 2004年12月24日 18:10

ソース: 『bounce』 260号(2004/11/25)

文/桑原 シロー

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