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満場の歓声に応えた再度の幕開け。エミネムのアンコールを分析する(2)

カテゴリ : フィーチャー

掲載: 2004年12月09日 12:00

更新: 2004年12月09日 17:23

ソース: 『bounce』 260号(2004/11/25)

ポジティヴなアンコール

“Puke”とは〈反吐が出る!〉ということだが、それをそのまま曲名にしてしまうセンスは、メジャー第1弾シングル“Just Don't Give A Fuck”のそれに近いが、実際にゲロを吐いている音を執拗に入れ続けているのは、もっと悪ガキなノリだし、今回のアルバムのスキットでネタにしているマイケル・ジャクソン絡みの件についても、マイケル側がどう出てくるのか、最初から予想してすべてを仕組んでいたようなフシもあり、もしそうだとしたら、どうせイタズラするなら、限りなくアンタッチャブルな存在が相応しいと思ったからに違いない。そういう発想も何か青臭いが(『The Marshal Mothers LP』リリース前にストレッチ・アームストロングと組んで作ったプロモ・カセットの曲間のスキットはすべてイタズラ電話だった)が、先の“Yellow Brick Road”ではまさに、まだまだ青かった「8マイル」前後の体験が、映画よりもディテールにこだわって綴られている。そして、何よりも、実質的な1曲目“Evil Deeds”から、いよいよみずからの出生にまで遡り、母親のことについては散々触れてきたエミネムが、そこでは初めて父親について正面から取り上げ、その不在から生まれた父親像を浮き上がらせているのだ。

 映画「8マイル」という企画がアーティストとして成功を収めたことから実現したものだとすれば、『Encore』はその成功の上に、(安易な表現だが)成熟を重ねたところから生まれたものではないだろうか。その最たる例が“Mosh”だ。この曲でのエミネムの煽り方を聴いていて、あの“Lose Yourself”と一脈通じるところがあるのではないか、と思っているリスナーもきっと大勢いるはずだ。“Lose Yourself”が、リリースから時間が経つにつれ、映画「8マイル」のエンディング・テーマとはまったく別個のものとして、聴く者を鼓舞するような〈人生の応援歌〉として聴かれていくようになっていった、という現象を完全に踏まえて、ネクスト・レヴェルに達している。それとは逆に、先に触れた“Puke”やマイケル絡みの諸々は、原点回帰というより、ここまで来てしまったエミネムの、〈成熟〉に対する著しい〈反動〉であると受け取ることもできるだろう。

『The Eminem Show』と『Encore』は、『The Slim Shady LP』→『The Marshal Mothers LP』→『The Eminem Show』ほど直線的な関係で結ばれてはいない。第1弾シングルということで“The Real Slim Shady”~“Without Me”路線であると容易に括られてしまいがちな“Just Lose It”も、実際はかなりハードな曲なのである。言うまでもなく『Encore』といっても、過去の作品を総括するという意味を含んだ後ろ向きのアンコールではなく、〈Never Enough〉という意味での前向きのアンコールなのだ。

▼『Encore』に参加したアーティストの作品を一部紹介

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